2018.04.18
【日替わりレビュー:水曜日】『いそあそび』佐藤宏海
『いそあそび』
おてんばお嬢さま、擦り傷だらけで海に潜る
海と山に囲まれたど田舎に住むお嬢さま・村上セト。元は大企業の令嬢だったけれども、社長である父親が失脚し、超僻地に一人暮らし。食べるものすらないもんだから、海に潜って手探りで貝を取ろうと苦戦しまくり。
と言っても海については全く知らない彼女。地元の集落に住む中学生の少年・浦島六郎が、見るに見かねて(あと彼女の姿にときめいて)、海産物を捕るルールと、効率のいい採取の仕方、調理法などを教えていく。
セトはおいしい食材を手に入れ、六郎と新しい発見を繰り返しながら、どんどん笑顔を見せるようになっていく。
一応元お嬢さまなので衣服はオシャレ。けれどもそのファッションであちこち行くもんだから、擦り切れてズタボロ。
礼儀が叩き込まれているからなのか、どことなく上品。それでいて根が幼いから、どんな時でも海にザブンと遠慮なしに潜る。
彼女の手と足が、どえらい傷だらけなのが、ものすごいフェティッシュだ。貪欲な生命力に溢れている。
潜ってわかめを採取する、足場からムール貝をこそぎとる。自然と向き合うことに対してとても積極的で、全くと言っていいほど物怖じしない。
もちろん怪我はまずいので、周りからは手袋をしろと注意される。ただ、彼女はまどろっこしいことなんてしていられないし、何より楽しいようだ。例えるならば、未来少年コナンみたいなお嬢さま。
おてんばお姫様と、それを支える世話焼き執事的立ち回りの六郎。2人の関係は、現時点では全く恋とは言えない。けれどもセトは、一巻後半ではセトすっかり六郎を信頼しきって、鍵を渡すほどに。六郎側としてはそんなん、ドキドキするなってほうが無理ですよ。男だと意識せず顔寄せてくるのには、心臓の高鳴りマッハですよ。
明るく正直。やんちゃで、ヤドカリだろうとなんでも食う、でも没落しつつもどこかしら品があるご令嬢。
「お嬢さまの脚に絆創膏」と聞いてムズっときた人は、ハート撃ち抜かれること間違いなしなので、迷わず読むべし。
©佐藤宏海/講談社