2018.04.20

【インタビュー】『かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜』赤坂アカ「毎週、神が降りてくるのを祈ってる。」

週刊ヤングジャンプで大人気連載中、「第3回次にくるマンガ大賞」も受賞したハイテンション”頭脳戦”ラブコメ『かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜』

『かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜』9巻書影

あらすじ:将来を期待された秀才が集う秀知院学園。その生徒会で出会った、副会長・四宮かぐやと会長・白銀御行は互いに惹かれているのだがプライドが高すぎて自分から踏み出すことを良しとせず、”如何に相手に告白させるか”ばかりを考えるようになってしまい…恋愛は成就するまでが楽しい?新感覚”頭脳戦”ラブコメディ!

今回は4月19日に発売した最新9巻の刊行を記念して、10年来の友人であるライター春川三咲が、作者の赤坂アカ先生に本作について根掘り葉掘り聞いてきました。

今回のインタビューは先生の作業場の台所にて実施(手前:春川、奥:赤坂先生)

(取材・構成:春川三咲/編集:コミスペ!編集部)

タイトル詐欺マンガ?

記念すべき第1巻1話扉絵

──今日はたくさん作品について聞かせて頂けたらと思っています、よろしくお願いします! 早速ですが、赤坂先生は『かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜』(以下、かぐや様)はどんな作品だと感じていますか?

赤坂先生(以下、赤坂):そうですねぇ…パッと浮かぶのは……タイトル詐欺マンガってことかな(笑)。

──あぁ(笑)。どんどん天才感がなくなっていってますもんね。

赤坂:そもそもの話になるんだけど、実はあんまり“天才”とか“恋愛頭脳戦”で押していくつもりはなかったんだよね。頭の良い馬鹿を描ければ良くって。馬鹿を面白く描くには、最初は頭良い風にみえたらいいかなっていう、逆の発想からきてるタイトルなんですよ。だからタイトル詐欺感はあるけど、プラン通りでもある(笑)。

どんどん天才感がなくなるかぐや様

──なるほど。ちなみにこのタイトルって赤坂先生がつけたんですか?

赤坂:えっと最初はね、『IQ』ってタイトルだったんです。『IQ』に愛を求めるって書いて愛求って当て字をしてた(笑)。でも編集さんから「無し」って言われて、『かぐや様は告らせたい』になって、さらに「天才とか頭脳戦って言葉も入れたいよねー」って話が出て、最終的に『かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜』になったんです。

ちょうどその頃前作の『ib インスタントバレット』が、タイトルだけじゃ内容が全然わからなかったことにちょっと反省してて、タイトルだけで内容が分かるのっていいなって思っていたこともあったんで、結果良かったですね。

──僕も良かったと思います。『ib』の話が出たのでそこからの繋がりについても聞きたいのですが、そもそもどうして集英社さんのミラクルジャンプで執筆することになったんですか?

赤坂:『ib』が終わることが決まった時、無職期間を作るのは良くないなと思ってツテを辿って集英社さんに持ち込みをしたのがきっかけです。最初はデスゲームとか鬱展開系のネタを十個くらい持って行って話をしていたんですけど、反応があまりよくなくて。「ポップなのありませんか?」と言われて持って行った一本目がかぐや様だったんですよね。

──おぉ、じゃあラブコメ一本目でストライクだったんですね。すごい。

赤坂:そうですね。ただ、僕は当時ヤングジャンプ(以下、YJ)で週刊で頑張る気満々だったんですけど、かぐや様はミラクルジャンプの連載会議に出すことになってしまって、全てが思い通りってわけじゃなかったですね。もちろん連載をとれるのは凄く嬉しいことですけどね。

──もともと週刊連載をやる気満々だったということは、YJに移籍するときも特に週刊連載への不安はなかったんですか?

赤坂:あったけど、まぁそんなでもなかった感じですね。「追い詰められればきっと出来るだろう」くらいに思ってました。

──で、実際にやってみたらどうですか?

赤坂いやぁー、死ぬよね(笑)。

──でしょうねぇ(笑)。僕、お酒の席で赤坂先生が「YJ移籍前に描き貯めする」って言ってたの聞いたんですけど、結局出来てたんですか?

赤坂:いや、結局しなかった(笑)。でもこれはサボったわけではなく、僕、時間があればあるだけ使っちゃうんですよね。もっと良く出来るって思っちゃって。だから週刊連載は小さな諦めの連続です。でも週刊はそれをしっかりしていかないとダメな媒体だと思ってます。コンスタンスに80%を出しながら、地力を上げて80%そのもののクオリティを上げていかなきゃって。

赤坂先生の作業場の様子を初公開!

赤坂先生の作業環境。卓上には何かの調味料が置かれています。

実際にペン入れされている様子。

机の周りには心理学の参考書が積まれていました。

赤坂先生の作業場では4人のアシスタントさん達の姿も。

毎週、神が降りてくるのを祈ってる。

──具体的な話についても聞かせて下さい。『ib』の頃から赤坂先生を知ってる読者から見たら、ラブコメであるかぐや様は挑戦的な作品に見えるのですが、影響を受けたり意識したりしている作品はありますか?

赤坂:これ言っちゃって良いのかな……影響と言われると『スクールランブル』ですかねぇ。

──あぁ、そう言えば昔から好きだって言ってましたね! でもそうかぁ、スクランなんですね。じゃあこれからスクランみたいにキャラクターが沢山増えていく構想もあるのでしょうか?

赤坂:前提の話になっちゃうんですけど、まずかぐや様はシットコム(シチュエーション・コメディーの略)なんで、キャラクターを増やさなくてもストーリーがまわるんですよね。登場しているキャラクター達はちゃんと物語の中での役割も明確に持ってるし。だから最近キャラクターが少しづつ増えていっているのは、物語上の理由よりも編集部からの「キャラクターを増やしてほしい」っていう要望の方が大きいかも(笑)。

──なるほど(笑)。シットコムだっていう話が出ましたが、単発のエピソードが多い中、毎週どうやって話を作っているんですか? 結構大変だと思うんですけど……。

赤坂:連載序盤は頭脳戦っていう看板が大きくあったから、思いつく限り頭脳戦のネタをやっていってたかな。でもだんだんとキャラクターについての理解が深まっていって、「この子はこういう表情を出す子なんだ。じゃあこの子がもっと恥ずかしがったり、怒ったり出来る場面を作ろう」という感じに、頭脳戦よりも感情優先になっていきましたね。転換点になったのは単行本1巻5話の「かぐや様はいただきたい」かな。

会長のお弁当のタコさんウィンナーを渇望するかぐや様。

そんなこんなしている内にYJへの移籍が決まり、その頃の打ち合わせで編集さんとの間で、「これからは頭脳戦よりも感情を爆発させる方向の方が良い」って話に改めてなって、今に至る感じかな。

──その思考の工程をどうやってネームにしていってるんですか?

赤坂:作業工程で言うと、まずはマインドマップみたいなのを作ることから始めるかな。バランスを考えながら登場キャラを決め、次に、描きたい感情を書き出す。そして、その感情を極端に表現できそうなシチュエーションも合わせて書き出して、紙の上で繋げていくんです。やっぱり感情が爆発するまでの流れが一番大事だと思うので、突飛すぎる組み合わせよりも親和性の高い状況や感情を繋げてネタを作る場合が多いですね。それが出来たら字ネーム→ネームです。

組み上げられていくネーム。

──なるほど。感情の爆発って言われると単行本5巻収録44・45話の「花火の音は聞こえない」がすごく良かったですよね。

赤坂あぁ……花火回ね。

──えっ何その反応!? 何か思う所がある回なんですか!?

赤坂:いやいや、無いけど(笑)。あの回はかぐや様で初の増ページ回なので、ページ数に合わせて物語のピークの調整はしましたけど、「花火の音は聞こえない」っていうタイトルを逆の意味で使うってことだけを決めてて、後はアドリブ……キャラの動くままに任せたらああなったっていう回ですね。

かぐや様に花火を見せるために会長が奮闘する、感動回。

──キャラが動くってやつですね。赤坂先生はかなり計算の人っていう印象が強かったのでちょっと意外です。

赤坂:今でも計算タイプだとは思う。『ib』の頃は完全に計算で作ってたけど、今はキャラクター達のランダム性を出すために土台作りを計算してるっていう感じかな。結果、面白くなるかならないかは結構運だよりで、面白いと思って描いたらそうでも無くて、どうなんだろうって思ってたら逆に面白くなったりしますね。毎週神が降りてくるのを祈ってます(笑)。

神が降りたというようにも感じられる異色回、「藤原千花は超食べたい」。

──心臓に悪いですね(笑)。ちなみに今までの中で神が降りた、読者から反響が強かった回って何話ですか?

赤坂:30話(第3巻収録)の「白銀御行は負けられない」かなぁ。先週入稿した回がちょうどその続編で、スタッフ間では「期末シリーズ」って呼んでますね。また「嘘である」を沢山やってます(笑)。

各メンバーが怒濤の勢いで嘘を重ねる”天丼”回

──そりゃ楽しみだ(笑)。

「ここに居たい」って思えるキャラクター達であって欲しい。

──キャラクターについても聞かせて頂きたいのですが、お気に入りのキャラクターは? 自己投影してるのは石上君ということは、付き合いが長いからわかるけど(笑)。

長年の友達から見ると赤坂先生は石上君に自己投影している。

赤坂:わかりやすくていいよね、石上君(笑)。お気に入りは白銀かなぁ。白銀は理想と現実・カッコいい部分と等身大の高校生の部分を両立できてる感じがして、可愛いキャラだなって思って描いてますね。

赤坂先生のお気に入りは主人公の1人、白銀御行。

──単純にすごくいい奴ですしね。努力の人なのも好感が持てます。

赤坂:基本的には悪役以外で嫌な奴は出さないつもりです。読んでいて、「ここに居たい」って思えるキャラクター達であって欲しいから。そういう風に物語を作ってたので、9巻に収録される体育祭編は異色ですね。

石上君が自身の過去と向き合う、体育祭編。

今後も含め、シリーズの中で多分最も鬱な展開だと思います。でも物語のバックボーンにはしっかりそういう暗い事情もあるんだよっていうのは明示したかったんですよね。体育祭編はバックボーンの明示の役割は果たしてくれたと思うので、次からはもっとマイルドになっていくと思います。

──バックボーンと言えば、かぐやの実家の話とかもありますよね。

赤坂:かぐやと白銀の出会いとかもあるね。その辺にも実はちょっと仕掛けを用意してあるんで、期待しててほしいです。

──おぉ。楽しみにしてます、マジで。

赤坂マンガの変遷を辿る。

──かぐや様についてたっぷり語って頂きありがとうございました! 赤坂先生自身のお話も聞かせて下さい。好きなマンガや影響を受けたマンガは?

赤坂:さっきも言いましたが『スクールランブル』は大好きですね。あとは『ちはやふる』末次由紀先生の読み切りが本当に好きで全部持ってます。それから、矢上裕先生の作品が大好きですね。

矢上裕先生の作品『アゲハを追うモノたち』『日替わり矢上ランド』。

他にも仕事場にはたくさんの蔵書が並んでいた。

──ちょくちょく話しましたが、デビュー作は『さよならピアノソナタ』のコミカライズで、2作目は能力バトル『ib』でしたが、それぞれの作品を描くうえでどんな違いがありましたか?

赤坂:そうですね、それぞれ全然違ったんですけど、『さよならピアノソナタ』は原作があったので、物語のどの部分を切り出せばお話として面白くなって感情が引き立てられるのか、肝はどこだろうっていう抽出作業があったんですよ。その作業で培った力が今、マンガを描くうえで、必要な場面とそうでない場面を選ぶのにすごく役立ってますね。『さよならピアノソナタ』のおかげでマンガの肝が少しわかった気がします。

──すごくわかる。『ib』はどうですか?

赤坂:『ib』は初の長期のオリジナル作品だったので、色んな課題は見えましたねぇ……(笑)。

──すごく苦戦してましたよね、連載当時。終わることが決まった時、『ib』はいずれまたやりたいって言ってましたけどその思いはまだあるのですか?

赤坂:やりたいけど、あの作品に込められた感情って20代が限度っていうのも感じてはいるんだよね。キャラクター達の持つ10代の感情は、描いてた当時よりも確実に遠いものになってるから、もう一度やるにしても別の形になるかもしれないですね。

──さらに大人になった赤坂先生の描く『ib』も楽しみです。そして『ib』が終わってからの『かぐや様』ですが、内容については散々もう語って頂きましたね。語ってないことと言えば……あっ、「次にくるマンガ大賞」コミックス部門1位おめでとうございます! 今更!

赤坂:あ、ありがとうございます。

「次にくるマンガ大賞」受賞のトロフィー。

──野次馬みたいですが、受賞した時の気持ちはどうでした?

赤坂:んー……。受賞の連絡をくれた僕の担当さんが、感情をあまり出さないタイプの人で……電話で「とりましたよ」くらいで実感が薄く、感動も同じく薄めでしたね。むしろ最近、「あれ、これってものすごいことだよね」って実感が追い付いてきて、やったー、すげーって思ってます(笑)。

──めっちゃすごいですよ。本当におめでとうございます。

かぐや様の今後は?

──そろそろインタビューの締めに入りたいと思うのですが、かぐや様の今後の展開や目標などを話せる範囲で聞かせて下さい。

赤坂:目標……そうですね。かぐや様はキャラ造形をものすごく長いスパンで見て考えているんですよね。このキャラはこういう要素を持っているけど、最初の内は出さずに我慢しておいて後から出す、という感じで。

──ちなみにですが、かぐや様という物語の結末は決まっているんですか?

赤坂:考えてないんですよね。キャラに好き勝手やらせてみよう、無駄なことをしようっていうコンセプトなんで。だからもしかしたら大学生編・社会人編なんかもあるかもしれないね(笑)。直近で言うと、ここ数巻でかぐやと白銀がくっついちゃうかもっていう構想もあったりするから、本当に終わりはどうなるかはわからない。

──え!? 結構物語の根底が崩れちゃうすごい情報な気がしますけど、大丈夫なんですか?

赤坂:大丈夫ですよ。少女マンガとかで考えると、付き合ってからの話の方が長いなんて普通にありえるじゃないですか。

──言われてみれば確かに。じゃあ楽しみに待ってればいいわけですね?

赤坂:そっすね(笑)。

──最後に読者の皆さんにメッセージをお願いします。

赤坂:よくネタ切れを心配されるのですが僕自身はその心配はしていなくて、その上かぐや様は終わりも決めていません。アドリブ感のあるキャラクター達をこれからも頑張って描いていくので、楽しみにしててもらえたら嬉しいです。

……あ、もうちょっといいですか? 終わりを考えていないって言いましたが、『ib』で「決定している終わり」を考えて描いてた時期があるので、この終わりを考えずに長期的なプランを考えられるっていうのは、本当に読者のみなさんのおかげですごいことだと思うんですよね。だからそうですね、さっきも言いましたが、今後も頑張って描いていくので皆さんよろしくお願いします。

──今日は色々とお話ありがとうございました!

最後に外までお見送りに出てきてくれた先生と、著者。

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この記事を書いた人

春川 三咲

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