2018.04.20

【日替わりレビュー:金曜日】『あかね書店の梶店長』青山はるの

『あかね書店の梶店長』

青山はるの先生による、通算4冊目の単行本です。タイトルと表紙からも分かる通り、本屋さんを舞台にした恋物語となっています。

高校1年生の咲希は、父親のリストラをきっかけに、あかね書店でバイトをすることに。本屋さんを選んだ理由はとっても単純で、「なんとなく楽しそうだから」。けれど想像以上に肉体労働が多く、お客さんの問い合わせ対応も難しい……。けれども何より身構えてしまうのが、店長の梶さんの存在。26歳にして店長をしているしっかり者の梶さんは、「本しか愛せない」と噂されるほどの冷血人間……。けれど、困っている時にさりげなく助けてくれたり、落ち込んでいる時に本で励ましてくれたり、ふとした時に見せる優しさに咲希は救われて……。

不器用な文学青年

店長というぐらいですから、結構歳上なのかと思っていたのですが、26歳と一般的には若者の部類。
とはいえ、主人公の咲希からしたら、10歳も歳上の大人です。この若さで店長を務めるぐらいですから仕事はとっても出来ますしおまけにイケメンと、スペックだけ見たら敷居が高くてなかなか手が出しにくいところ。

けれどもそれ以上にハードルの高さを感じさせるのが、その冷たい態度。「本しか愛せない」というのは、文字通り人間に興味が無さそうと思わせるほどにクールだからなのですが、同時に誰よりも本を愛しているという、無類の本好きであることを暗に示しています。

結局の所、人を愛せないのではなく、単純に人付き合いが苦手なだけ。内面は心優しい文学青年で、不器用ながら要所で咲希を気遣う大人な面を見せてくれます。歳上のイケメンなのですが、スマートじゃないところが逆に女性慣れしていない感じを醸し出していて、心くすぐられるんですよね。

「好き」という気持ちを優しく丁寧に

「好き」という気持ちを自覚したは良いものの、16歳からしたら26歳は驚くほど大人なわけで。咲希は具体的にどうなりたいなんて想いは描くことも出来ず、ただただ”大人”に近づきたいと、バイトに精を出してみたり、身だしなみに気を使ってみたりと、精一杯頑張ります。その様子は、とにかくピュア

一方の店長も立派な社会人ですから、好意を感じても自ら手を出すなんてことはしません。けれども頑張っている女の子の姿を目の当たりにしたら、少しぐらいは「ご褒美」をあげたくなるもの。店長とバイトという表向きの関係性は変わらないままですが、その中で互いの心の距離は一歩ずつ確実に近づいていく様子が、丁寧に描き出されていきます。

少女マンガにしてはかなりプラトニックな部類で、人によっては刺激が少ないと感じるかもしれませんが、その分ピュアさは増し増し。この清廉な感じ、純文学的で良いではないですか。

実在の小説が多数登場

さて、本作の面白いポイントの一つが、作中に実在の小説が登場すること。『パーマネント神喜劇』『流星ワゴン』『ぼくのともだち』『向日葵の咲かない夏』『世界から猫が消えたなら』など、小説にあまり詳しくない私でも知っているようなヒット作や名作の数々が、物語を彩ります。

個人的にオッと思ったのは、一瞬だけ登場する『フェルマーの最終定理』。数学を題材にしたノンフィクション小説なのですが、数学嫌いの私ですらページをめくる手が止まらなくなったほどに、めちゃめちゃ面白い作品です。本作『あかね書店の梶店長』はもちろんのこと、こちらも是非とも手にとって頂きたい1冊であります。

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