2018.05.18
【インタビュー】『COMIC MeDu』編集部「あらゆる可能性を探り、ノンジャンルで面白いマンガを追求!」
成人向けマンガ雑誌「comicアンスリウム」「COMIC E×E」の編集部が、新たに一般向けマンガサイト「COMIC MeDu(こみっくめづ)」を昨年スタートさせた。
その出自から美少女ものが多いと思いきや、萌え系から劇画、爬虫類、戦隊ヒロインといったバラエティに富んだマンガを連載。「ジャンル不問コミックサイト」という触れ込みに違わぬラインナップで掲載されている。
そこで今回は「COMIC MeDu」の編集部に直撃インタビューを実施。小岩編集長、今編集、孝学編集の3人にお話を伺ってきた。
(取材・文:かーずSP/編集:コミスペ!編集部)
成人と一般向け、ボーダーレスに仕事をやっていくために
──『COMIC MeDu』がスタートしたきっかけから教えて下さい。
8年前にGOTで成人向けマンガ雑誌「comicアンスリウム」の前身であるコンビニ誌「キャノプリCOMICS」を立ち上げた時から、一般マンガも作る予定がありました。
──DMMが成人向け部門を分社化しましたが、その動きとは関係が?
小岩編集長:全く関係ないです(笑)。アダルトが厳しいから一般向けを作ったというニュアンスでもありません。8年かかって事業体としても回せる状況まで持ってこれたので、『MeDu』をスタートさせたという流れです。
──8年かけて、ようやく媒体を広げる余裕ができたと。
小岩編集長:はい。もう一つの理由は、作家さんが成人向けだけじゃなくて一般向けもやりたいと考えた時に、私たちとしても末永く作家さんと一緒にお仕事がしたい。そういう土壌を作ることを、ウチとしてはやらなきゃいけないと考えていまして。
編集部としても作品の対象年齢は関係なく、ボーダーレスに仕事をやっていきたいという意向があります。作家も編集者も作りたいものの幅を広くしたいと考えた時に、両方やるべきという判断で立ち上げました。
──「MeDu」では「Comicアンスリウム」編集部らしく、あえて美少女路線をウリにすることはしなかったんでしょうか?
孝学編集(以下、孝学):「MeDu」を立ち上げる時は「アンスリウム」の作家さんたちが参加して、美少女という強みを押し出していく流れはあったんですが、フタを開けてみれば意外とそうなりませんでした。
小岩編集長:「こういうマンガじゃなきゃダメ」ってことは自分たちにはないので、現状はバラエティ豊かな感じになっています。
孝学:これから始まる予定の新連載には美少女的な作品もありますので、成人向けコミックをやっている会社なりの色は今後多少は立ってくると思いますが。
「MeDu」の気になる作品をピックアップ!
──個人的に気になった作品をいくつか伺いたいんですが、まずは窓口基先生の『東京入星管理局』。
孝学:「窓」名義で「アンスリウム」で描いていただいている方です。コミティアではオリジナルを描かれていて、センスもありますし、一般でも是非やりたいということだったのでスタートしました。
小岩編集長:荒削りではあるんですけど、すごいパワーがある作品で、画作りが凄いです。
──小倉脩一先生の『あいるエンカウント!』については。
今編集(以下、今):小倉さんも「キャノプリ」「アンスリウム」でも描いてもらっていて、エロも可愛い系のエロだったんで、一般もいけるんじゃないかということで描いていただいてます。
──クール教信者先生の『ぱらのいあけ〜じ』はマンガ業界ものですね。
小岩編集長:こちらはもともと「アンスリウム」で連載していて、すでに単行本も出ている作品です。それを再掲載しています。
──ほるまりん先生の『エサのエサやった?』は爬虫類ブリーダーという変わった題材ですね。
小岩編集長:ほるまりんさんは、私が「コミックボンボン」の編集をしていた時に担当していた作家さんです。もともと爬虫類がお好きな方で、『メダロット』のデザインも爬虫類の要素が入っている作品だったんですよ。
──袁藤沖人先生の『乙姫ダイバー』も独創的な世界観ですごく面白いです。
今:こちらも「COMIC E×E」で掲載された作品を再掲載しています。成人向け雑誌にもエロではない作品がいくつか連載されていますので、それを「MeDu」でも掲載している形ですね。
小岩編集長:うちは成人向けの雑誌でも結構そういうことをやっていて、「キャノプリ」の時から士郎正宗さんには今でもずっとうちで描いて頂いています。
──あまのあめの先生の『ピンクロイヤル』も内容がグッときて、続きが気になります。
孝学:ご本人が戦隊ヒロインの、キャットスーツというかラバースーツが好きで(笑)。残虐性の強い表現も含まれますが、ぜひ一回描いてみたいということで新連載となりました。
劇画作品も掲載し、幅広い層に向けた「MeDu」の魅力
──てらしまけいじ先生の『赤塚不二夫の旗の下に フジオプロの青春』も、すでに単行本が出ている作品ですよね。
今:ええ、てらしまさんが赤塚先生の元でアシスタントをされていた時代を題材にしたマンガで、「MeDu」でもプレイバック連載しています。
僕は昭和のマンガが大好きで、石ノ森章太郎先生とか、赤塚不二夫先生の本を作らせていただいたりしています。昔の世代の作家さんや作品を読んでもらいたくて、隙きあらばこういうマンガを載せていただいたりしています(笑)。
──では、つげ忠男先生の『昭和まぼろし 忘れがたきヤツたち』も今さんのご担当なんですか?
今:そうです。つげ忠男先生はつげ義春先生の弟さんで、「ガロ」などで活躍されていた方ですね。年齢も70を超えています。そういう大ベテランの作家さんの新作がWebで発表されているのも、意外性があって面白いかなと。
「つげ忠男って、まだまだ現役なんだ!」って反応があると、僕としては嬉しいですね。
イギリス人マンガ家・ネーザン・カウドリ氏、衝撃のデビュー作!
──そして先日から強烈な新連載が始まりました。ネーザン・カウドリ先生の『思い煩うな空飛ぶ鳥を見よ』は、かなりインパクトのある作品ですね。
孝学:ネーザンさんは今は日本在住で、「コミックアート東京」という海外作家さんが集まるイベントでこの同人誌を出していたんです。
小岩編集長:『思い煩うな 空飛ぶ鳥を見よ』ってタイトルもすごいよね。イギリス人の方で、天才です。
孝学:「MeDu」で掲載しているバージョンでは違ってますが、元々自費出版していた原書は左綴じだったのを日本向けに右綴じにして、更にコマも反転させているんです。
小岩編集長:それでも成立するコマ割りってすごいですね。マンガはコマとコマの連続性じゃないですか。その基本通りなんですけど、『元祖天才バカボン』みたいなコマ割りです(笑)。
今:日本の昔のマンガって1ページ12コマ割が基本で、手塚治虫先生も石ノ森章太郎先生もみんなページを12に割って、その中で構成を考えていく作りだったので、基本といえば基本形なんですよ。
孝学:セックス・ピストルズ以来の衝撃ですよね。
──(笑)。 あるいはトレインスポッティング的な。ある種、ヴィレッジヴァンガードのファン層とか、好きな人はドハマリしそうですけど、この作品をどのように展開されていくのでしょうか??
小岩編集長:これを本にして売ります(笑)。あるいはキャラクターグッズや、LINEのスタンプとか、色々可能性が広げられるかもしれません。
「雑誌的なブランディング」をあえてやらない。その理由とは…?
孝学:「MeDu」には小倉脩一先生のような美少女系もいれば、ネーザン先生みたいな方も載ると。
小岩編集長:「MeDu」は基本的にノンジャンルなんです。極力、雑誌的な考え方をしないで作りたいと考えています。
──「雑誌的な考え」とはどういうことでしょうか?
小岩編集長:読者層を絞って、そこに合うものをブランディングしていくやり方です。「MeDu」にも一応、「ヤング誌以上」という読者層は想定しているんですが、男女どちらかに振ることもしていません。
絞り込むことによってブランディングしていくんじゃなく、作家さんに寄った形で作品を売っていく。その集合体として「MeDu」をスタートさせました。
──雑誌に作家を合わせるんじゃなくて、むしろ作家に雑誌を合わせるくらいの勢いで。
小岩編集長:編集長をやっていると、よく「その雑誌の色を出さなきゃ」みたいに言われるんですが、正直それが個人的にはピンとこないんですよ。雑誌の色は勝手に出てくるものですし、それを作ってくれるのは描いてくださっている作家さんたちです。
編集部としては「この作品が面白い」ってところを信じて、素晴らしい作家さんを発掘していく。そこをいちばんの主軸にしてやっていきたいと考えています。
──「雑誌的な考え」を選択しなかったのはなぜでしょうか。
小岩編集長:今の時代、雑誌でブランディングしてマンガを売っていくというモデルは崩壊しています。色に合わないものはどんどん排除して、絞り込んで特化していくやり方は成果も上がっていたんですけど、そういう雑誌が今、どこも苦しくなっているわけじゃないですか。
大手も老舗も厳しくなっていて、それは一般向けだろうが成人向けだろうが同じ状況です。なくなってしまうスキームで考えていても、しょうがないんじゃないかって思います。
──そこでWebを使って、自由に作品を作るっていう方向へ向かったんですね。
小岩編集長:Webを選択したのは、スタートに当たって一番お金がかからないからなんですが、今はWebから火がついてヒットするものがたくさん出てきています。
現状は必死に作品を作っている段階ですが、紙の単行本は絶対に出すので、そのタイミングで、露出やプロモーションに予算をかけるっていう考え方です。
何が出てくるかわからないけど、楽しいものが提供される場
──美少女ものから昭和を懐かしむものまで、バラエティ豊かです。それぞれ個別に、売るための戦略を変えていく必要が出てきますよね?
小岩編集長:そうなので、普通は効率が落ちるからやらないって判断になるんです。例えば美少女系の作品に特化してバーンって数を揃えて、美少女系マンガが好きな人たちの集まるところに配っていけば、生産性は高くなります。
ただそうすると、狭いマーケティングだけで全部話が完結してしまいます。また、そのマーケティングが美味しいってなると人があっという間に集まってきて、競争が激化します。すると結果的にどんどん厳しく、苦しくなっていってしまいます。
──たしかに、今はレッドオーシャン化するのもあっという間ですからね……。
小岩編集長:一般という広い市場に出るなら、飛び石的でも構わないんで、作家と編集者の新しい可能性を探って行った方がいいかなと。もしかしたら今さんが担当している劇画で一つ新しい市場ができるかもしれません。
「MeDu」って本当にまだスタートしたばかりですから、3、4年くらいのマネタイズで狭い世界だけを見ていたら、多分あっという間につまんなくなっちゃうと思うんです。
とにかく面白いものがここを経由して、ひとつジャンルができたら独立してもいいわけです。最初は混沌としていても構わないので、面白いものが始まる場所。読者にとって、何が出てくるかわからないけれど、確かに楽しいものを提供できればいいなと。
「MeDu」編集部3人に訊いた、お気に入りのマンガは?
──好きなマンガ、おすすめマンガを教えてください。
今:子供の頃からずっと読んでいるのは、ちばてつや先生、永井豪先生、石ノ森章太郎先生などです。なんといっても好きなのは藤子不二雄先生。A先生もF先生も自分の中では大きい存在です。A先生では『まんが道』、F先生では『パーマン』が好きです。
ヒーローものなのでF先生の作品の中では〝正義の心〟と〝悪の心〟をはっきり描いていて好きです。それにけっこう色んな事を教わりました。「覚醒剤ってベビーパウダーみたいなんだ」って知ったのも『パーマン』ですし(笑)。
小岩編集長:私は『あしたのジョー』です。理由もわからないぐらい好きです。
今:梶原一騎のロジカルなところと、ちばてつやの情感、二つがうまく融合していて、他にないですよね。
小岩編集長:あと個人的なツボがいっぱいあって、「ドヤ街」とか「ボクシング」とか「少年院」とか「孤児」とか。
──ヤンキー的ですね(笑)。
小岩編集長:子供心に、そういったアングラ的な部分も含めてジョーに憧れたんでしょうね(笑)。
最近のマンガだと、コナリミサトさんの『凪のお暇』っていう、主人公がOL生活に疲れて一人暮らしを始める作品が好きです。
今の時代の、なんとなく息苦しい空気感をすごく自然に表現しているんですよ。一人暮らしの生活の良さを見せることで、逆にOL生活の息苦しさが際立ってくるっていう構図も面白くて、よくできているなって。
今:僕は最近では、井上三太さんの『TOKYO TRIBE WARU』を推させて下さい。
僕はフリーランスの編集でして、ぶっちゃけて言うとこの井上三太さんの作品の担当もしているんですけど、凄く面白いです。ネームが上がってくるのが毎回楽しみで。
──秋田書店が多いですね。
孝学:じゃあ次は講談社さんで(笑)、『五佰年(いほとせ)BOX』(宮尾行巳)を挙げさせていただきます。
主人公が古い蔵で見つけた桐の箱を開けると、中に箱庭みたいなミニチュアが入ってるんです。そこには戦国時代の街並みが再現されていて、中にいる人たちが動いているっていう奇妙なお話です。
箱の中に干渉すると、その行為が現実世界に影響を与えてしまい、幼馴染が消えたりする。バタフライエフェクトをテーマにしていて、SF要素や土着的な要素もあって面白いです。
──それでは最後に、「MeDu」のこれからの野望を教えてください。
小岩編集長:今も新連載を仕込んでいまして、これから次々と始まっていきます。すでにスタートしているマンガも面白いので、是非一度覗いてみてください。毎週金曜日には、いろんな作品が更新されています。
単行本の発売も今年後半にはスタートさせますので、書店にも並んでいく予定です。何が出てくるかわからないけどおもしろい、そんな作品がどんどん増えますので、これからもMeDuをお楽しみに!
──本日はありがとうございました。