2018.06.02
【日替わりレビュー:土曜日】『恋するはぐるま』日月アスカ
『恋するはぐるま』
2013年に「ヤングガンガン」で短期集中連載された『ロボット喫茶はぐるま』(全4話)という作品がある。
とある喫茶店に入ってみると、店内でせっせと働くスタッフがなぜか戦闘ロボアニメに出てくるようなゴリっゴリにいかめしいデザインで武装した人型AIロボットだったもんだからビックリ……という内容で、ロボ好きな読者が一目見れば忘れられないインパクトをもつ秀作だった。
その作者・日月アスカ先生が満を持して去年から「サイコミ」で描いている長編連載作がこちら、『恋するはぐるま』である。
転校2ヶ月目の女子高生・織部HAL(おりべ はる)が初恋の勢いにかられて人気者の爽やか男子・相良に告白するも玉砕。いったい自分の何がいけないのかと悩みながらも親友の女子や恋愛アドバイザーを自認する頼もしい委員長(頼れるとは言ってない)に励まされ、お友達からじょじょにステップアップ……できるかどうか微妙なラインを不器用に突っ走る学園ラブコメディになっている。
だがしかし、そこはもちろんロボット喫茶という代物を手がけた作者の新作である。一筋縄でいくマンガではない。
質問:冒頭、織部さんはなぜ相良くんにフられてしまったのか?
答え:ロボだから。
そう。この女子高生、なぜか思いっきりロボなのだ。
全身あちこちのパーツがすさまじい細かさ(1980年代ロボアニメ最盛期を彷彿させるディテール!)で描き込まれたボディにスカート履きの制服を着用。お顔はガンダムでいえばキュベレイに似たのっぺりマスク。
パカリと開く頭部には高度な機能をもつ装置が満載で、各種データ分析からサイバーストーキングまで自由自在。
ドキドキして心臓が爆発しそう、とか言ってたら物理的に大爆発を引き起こす火力を備えて……うん、ロボだこれ。
日常的な舞台のなか周囲から浮く人型ロボを、平然とぶちこむ異様で攻めるのはロボット喫茶と共通する趣向だが、さらに本作はそのギャップ仕立てを恋でキュンキュンする乙女キャラクターに集中することでボケたおし度合いを先鋭化させている。
ただし念を押しておきたいのは、それは決して、可愛くもないものが似合わないふるまいをするのをバカにするような悪い笑いではないという点だ。
織部さんは全身機械――つまり肉体の性(さが)に左右されないため、その感情表現は純粋にストレートなソフト面のむきだしということになる。恋心のピュアさがはじめから保証されているのだ。
機械なのに、ではなく、機械だからこそ描ける純情がそこにはある。
その一途さ、けなげさ。可愛らしいというほかないではないか。可愛すぎるから微笑ましく、その微笑ましさがコメディになっているのだ。
そんな具合にキュートなロボ娘が楽しめるマンガの新星として大注目の本作は、初単行本が先月終旬に発売されたばかり。
追いかけるにはうってつけのタイミングだ。
©日月アスカ/講談社