2018.07.17
【インタビュー】『白衣さんとロボ』柴「幅広い年齢層に読んでもらえるのが4コマの魅力」
天才女子高生科学者の「白衣さん」と、彼女が発明したレトロな外見の「ロボ」が、これまたレトロな木造建築で暮らす日々を描いた4コママンガ、その名もずばり『白衣さんとロボ』。
ストーリー仕立ての4コマが主流である昨今では珍しく、昔ながらの1本完結型の作品として、老舗4コマ誌「まんがライフ」(竹書房)の中でも高い支持を得ています。
そこでコミスペ!では、単行本2巻がリリースされるこのタイミングに当たって、作者の柴先生にインタビューを実施しました。(2巻は本日7月17日発売)
『白衣さんとロボ』の制作秘話はもちろん、シンプルだけど奥深い「4コママンガ」というフォーマットの魅力についても伺ったインタビューになっています。どうぞお楽しみに。
柴:2013年、『白衣さんとロボ』で竹書房新人4コマ杯月刊賞受賞。2015年、『おおきなのっぽの、』で第3回講談社まんがスカウトFes「月刊少年シリウス」チャンピオン部門受賞。
現在、「まんがライフ」(竹書房)で『白衣さんとロボ』、「月刊少年シリウス」(講談社)で『転生したらスライムだった件』のスピンオフ4コマ『転スラ日記』を連載中。
(取材・文:ましろ/編集:コミスペ!編集部)
「ちゃぶ台で食事をする博士とロボット」というイメージから生まれた作品
──『白衣さんとロボ』の誕生経緯を教えていただけますでしょうか?
柴先生(以下、柴):誕生経緯は……、なんでしょう?
作品を描くにあたり、まっさきに浮かんだイメージが「ちゃぶ台で食事をする博士とロボット」という光景で、プロット版の設定も数分でできあがったと思います。
キャラデザも含め、特に凝っていたり想い入れがあったり、ましてや連載を狙っていたりしたわけではありません。言ってしまえばただの思いつきです。そのくらいの気楽なスタンスで生まれた作品ですね。
──連載を続けていくにあたって、柴先生が意識されていることは何でしょうか?
柴:一番気にしているのは、「マンガずれ」していないかということでしょうか。
キャラクターの見た目や組み合わせこそ奇抜で、ネタとして派手なリアクションをすることもありますが、お話としては日々のなんでもない話題を当たり前に描ききることを念頭に置いていますね。
自分がどう考え、何を表現したくて、それをいかに読者に伝えるかを、いつも割とまじめに考えています。だからネームが遅いんですが。
──本作は、「まんがライフオリジナル」2014年1月号で初ゲスト→8~9月号で再ゲスト→「まんがライフ」2015年10~12月号で再ゲスト→2016年2月号から連載と、連載までに2年近い期間がかかっています。初掲載から連載決定までの、詳しい経緯を教えていただけますか?
柴:うーん、これに関しては、私の方から特にアプローチはしていません。竹書房様からのお仕事のお話を受けてこなしたというだけで。
まあ、「まんがライフオリジナル」のゲスト掲載のあと音沙汰がなかったので、「ああ、人気がなかったんだな」と気持ちを切り替え、『白衣さんとロボ』はここで一旦終了とし、ふたりにはアイデア箱に戻っていただきました。
正直、1年後の再ゲストからの連載というのが意外でしたね。何があったんでしょうか。
長い空白期間はありましたが、その間に50本くらい様々な作品を描いたので、その経験が『白衣さんとロボ』に確実にフィードバックされていると思います。逆に、この空白がなかったら、まったく別の作品になっていたでしょうね。
白衣さんは、描きにくさの塊のようなキャラクター
──『白衣さんとロボ』を描き始めたころと現在とで、「白衣さん」や「ロボ」のキャラクター像に変化はありますでしょうか?
柴:初期の白衣さんは、表情の変化がほとんどなく、テンションも一定の「機械的な」キャラクターでした。これは、感情的なロボとの逆転現象の面白さを狙った、あくまで読み切り用の設定です。
連載が始まってからは、「浮世離れ」「偏屈」「ぐうたら」などの要素を強くして、彼女なりの人間的な感情やリアクションを押し出せるキャラクターに変更しました。
キャラが2人しかいないのに、一方が常に無反応だと話が転がしづらく、すぐに行き詰まると思ったので。おかげで、今の白衣さんは初期とはほぼ別人になっています。
──ロボの方はいかがでしょうか?
柴:ロボのキャラクターは、昔からほとんど変わっていません。
初期よりも白衣さんに対して遠慮しなくなっていると言われることもありますが、最初からそういう設定で描いてます。白衣さんのお世話をする生活の中で、どうしたら彼女をコントロールできるのかをある程度は熟知しているということです。
ただ、ロボは白衣さんを「慕うべき存在」だと考えているため、表立って反抗はしませんし(たまにしますが)、ひどい扱いも受け入れています。ときどき冒頭に差し込まれる、「私はロボ」で始まるナレーションが、彼の表面上の顔ですね。
その顔が完全に取り払われることを、実は白衣さんは望んでいるのかも……。2巻にも、それを匂わすセリフがあります。
──単行本1巻発売時のブログ記事で、「白衣さんは描きにくいキャラクター」だと仰っていましたが、外見がでしょうか、それとも性格がでしょうか? また、描きにくさは今も変わらないのでしょうか?
柴:外見に関しては、描くのが苦手で練習しなきゃいけないと思ったパーツ(長髪、前髪ぱっつん、セーラー服、白衣・背広、脚線)を全部集めたデザインなので、現在にいたるまで恐ろしく描きにくいキャラクターです。
おかげで作画時間が異様にかかってしまい、毎回自分で自分の首を絞めています。
性格面も、腰が重い上に理屈っぽくて動かしにくいし、なんでこんな面倒くさいのを主役にしちゃったんでしょうね。
クリスマス回も、せっせと準備しているロボに対して、まず理屈をこねて全力で否定しますから。ページがいくらあっても足りませんよ……。
そういった点では、単に理想像とか好みとかでは描いていないので、ある意味リアルなひとりの人間といえるのかもしれません。
──これまでのエピソードの中で、柴先生ご自身が特に気に入っているものはありますでしょうか?
柴:2つありまして、ひとつは1巻収録の「白衣さんと夏の終わりの」です。白衣さんが風邪でダウンするお話ですね。
ネーム自体は、2014年のゲスト時にできていたのですが、ふたりの関係をもっと紹介してからでないと分かりにくいということで、ずっと温めていたエピソードです。
ロボは通常運転ですが、白衣さんの立ち位置や心情に変化があり、ラストも含めていつもと違うお話に仕上がっていると思います。実は、この手の話の方が描きやすいんですよね。
もうひとつは、発売したての2巻に収録されている「白衣さんと育児日記」。
こちらも、いつもと違う白衣さんのお話ですが……、見ようによっては最終回にしてもよさそうな内容ですね。
──『白衣さんとロボ』は、良い意味で「変化がない」4コマとして、これからも長く連載が続いていくと思われます。その中で、今後はこうしたエピソードが描きたいと考えているものはございますか?
柴:特に描きたいのは、セリフや擬音が一切ないサイレント回と、白衣さん・ロボのどちらかがまったく登場しない回。ただ、ふたりの掛け合いがメインの作品なので、かなり異質になりますね。
また、白衣さんの家族や、ロボの兄弟機に関するエピソードも温めているのですが……。質問の通り「変化がない」という印象がある以上、おいそれとは出せないと思います。
はやく作品をぶち壊したいです。
「描きたいもの」「描けるもの」「求められているもの」を明確に
──柴先生は、いつごろからマンガを描かれているのでしょうか? また、マンガ家を志したきっかけは何でしょうか?
柴:小学校2・3年生のころに、コマを割ってマンガを描いたのが最初でしょうか。とりあえず、小学校の卒業文集には「マンガ家になりたい」と書いた記憶があります。
ですが、ちゃんとした(出版社の応募条件を満たした)作品を描き上げたのは数回しかありませんでした。それで、2013年ごろにまじめに描こうと決意して、いままで揃えるだけ揃えた画材を全部処分して、数十冊あった落書き帳も破り捨てて、経験のないフルデジタル環境に移行しました。
道具ばかりあってもできない奴はできないので、思いきって一新した方がよかったということですね。
──2016年に『白衣さんとロボ』の連載が始まるまで、週に1本のペースで新作のマンガをpixivに投稿されていて、創作意欲の高さに感服いたしました。このころ、どのような点を意識してマンガを描かれていたのでしょうか?
柴:言っても、当時はデジタル作画も4コマもほぼ素人だったので、とにかく基本に則った作品、読みやすい作品にするという点を徹底しました。
また、作品ごとに企画書を作成して、どういった形態・テーマ・視点なのかを書き出して、完成したら自己採点をして、今後の改善点を頭に叩き込んでから次の話を描きました。
自分が描きたいもの、描けるもの、求められているものを明確にして、それらを擦り合わせることをずっと考えていましたね。
──過去に影響を受けたマンガ・作品があれば教えてください。
柴:小さいころマンガを読みはじめて、学生時代までそれなりの数を読んでいるので、何かしら影響を受けていると思うのですが……、「これだ!」というものがすぐには出てこないんですよね。
マンガよりは、ドラマや古いお笑い番組、テレビCMなどの影響の方が大きいかもしれません。
──影響を受けた4コママンガも、特にありませんでしょうか?
柴:4コマに関しては、もっと思いつきません。少なくとも、学生時代はまったく読んでませんね。強いていえば、実家で取っていた新聞に掲載されていた、植田まさし先生の『コボちゃん』でしょうか。
とはいえ、作品テイストとかではなく、新聞という堅苦しいものにも存在が許されている「4コマ」という形態に感銘を受けたというか。
4コマの「間」が好き
──柴先生は、出版社への持ち込み時代から現在まで、ほぼ4コママンガだけを描き続けておられますが、4コマというフォーマットで勝負しようと思ったきっかけなどはありますか?
柴:幅広い年齢層の方に読んでいただくためですね。具体的にいうと、私の親、甥や姪に読んでもらおうと思ったのがきっかけです。
特に上の世代には、意外と「コマをどう辿って読めばいいか分からない」「絵とフキダシの関連性が理解できない」「目が疲れる」と言う方が多いので。そこで、視線の移動が最小限で済む4コマでいこうと思い立ちました。
加えて、基本的に1本1本で成立する4コマ作品だと、気軽に少しずつ読めますしね。
──柴先生が考える、「4コママンガ」の魅力とは何でしょうか?
柴:上でも答えたように、「読みやすい」というのが一番ですね。それと同じくらい大きいのが、「テンポ」「間」です。
同じ大きさと形のコマを4つ繋げただけですが、スパッと終わるもの、後を引く読後感を得られるものなど、ネタによって感じる「時間」がまったく違ってくるんです。簡単に読める分、そういった演出がストンと読み手に伝わるのだと思います。
描く方も、そういうのを考えながらですので、楽しいですよ。
──『転生したらスライムだった件』のコミカライズ『転スラ日記』(講談社)では、長方形のワイド4コマにも挑戦されています。ワイド4コマと、『白衣さんとロボ』などの通常の4コマでは、描かれていてどのような違いがあると感じられているでしょうか?
柴:ワイド4コマは、ひとつのコマが大きい分、どうしても通常の4コマと同じテンポの作品にはなりません。基本的に通常の4コマの「間」が好きなので、かなり苦労しています。
逆に言えば、通常の4コマにはできない画面構成も可能なので、そこは割り切りつつ手探りで描いている状態です。ワイド4コマは、4コマというより1ページマンガという感覚ですね。
──最後に、読者の方に向けてメッセージをお願いいたします。
柴:のんびりと描き続けている『白衣さんとロボ』ですが、ようやく2巻発売までこぎつけました。
2巻は、定番の季節のお話はもちろん、
白衣さんが○○してしまうお話、
いつもの舞台から飛び出すお話など、
1巻以上にバラエティに富んだ内容になっています。
この夏、スイカを食べつつ、麦茶を飲みつつお楽しみください。
──今回はありがとうございました。
作品情報
©柴/竹書房