2018.07.12
【日替わりレビュー:木曜日】『ビューティフル・エブリデイ』志村貴子
『ビューティフル・エブリデイ』
爽やかなカップルだって「セックス」するし
爽やかな絵柄やリアルで緻密な心情描写、とつぜん入り込むスピリチュアルで不思議な現象。志村貴子先生の作品は、いつもどこか一筋縄ではいかせない、ちょっと「いい女」的なミステリアスさを感じる。
先日刊行された『ビューティフル・エブリデイ』は、そんな先生の魅力が詰まった読み切り連作シリーズだ。
エロマンガ家の母が夫の死後、再婚。娘の花琳は、新しい父親と、歳の近い兄と妹ができる。一つ屋根のしたで始まる新しいかぞくの形。ただでさえ思春期の子ども3人。義兄の光一は顔はいいがデリカシーゼロのセクハラ男。おまけに彼は、花琳に対してかぞく以上の想いを抱いてしまっており、花琳と彼氏との関係に嫉妬する始末。義妹の美咲はブラコンゆえに花琳を敵視。
できたてかぞくのぎこちない暮らし。しかし、光一も美咲もけして根が悪い人間ではない。むしろ不器用ながら、とても優しい。正直者なのだ。ある意味、等身大で親近感のわくキャラクター。
一方で、花琳は、少女マンガに登場するような、可愛くて性格もよくて完璧そうに見える少女だ。亡き父も含めて、両親ともにエロマンガ家であったということは、わざわざ設定として聞かされない限り忘れてしまいそうだし、彼女の言動にはそういった性的なにおいが、むしろ不自然なほどしない。彼氏もイケメンかつ爽やかで性格がよく、非の打ち所がない。デートといっても、学校帰りに一緒に帰って本屋に寄り道したり、休日にお買い物してクレープ食べるとか、それくらいでしょ、みたいな感じにみえる。
しかし、この物語は、第一話の花琳による発言から、彼女に対する見方が大きく変わるのも特徴だ。花琳がどれだけ可憐でピュアにみえても、第1話をへた読者はたぶん毎回心のどこかで「でもやることやってんでしょ」と思うようになるだろう。花琳と彼氏との旅行デートも、特ににおわすことすらも描かれないが、むしろ描かれないからこそ想像をかきたてられる。
それは、読者に限らず、花琳の周りのキャラクターも同様である。義兄の光一や、花琳に憧れるクラスメイトのあやのは、花琳に対して、人知れずそういった妄想にふけったり、夢をみたりする。
一見爽やかな群像劇に見える今作品は、「エロマンガ家」というひとつのキーワードによって、その様相を微妙に変える。そのちょっとした違和感が、物語のスパイスとなっている。そして、その思春期のリアルな日常の中に、とても自然に溶け込む怪奇現象。あまりに自然だから、読んでいて心地がいい。
新しいかぞくがどのように姿を変えていくのか、思春期の彼らのリビドーの行き先はどこに向かうのか、これから物語がどう広がっていくのか楽しみな作品だ。
©志村貴子/祥伝社