2018.08.23
【日替わりレビュー:木曜日】『ハヴ・ア・グレイト・サンデー』 オノ・ナツメ
『ハヴ・ア・グレイト・サンデー』
大好きなダッドと過ごす最高の週末
フリーランスの状態で仕事をするようになってから、平日も休日も区別がつかなくなってしまった。オンとオフの切り替えが難しくて、気がつくとずっと仕事ばかりしているまま、今日が何曜日がわからないまま一ヶ月が終わりかけているときもある。そんな私が、自分の休日を取り戻したい、と思うようになった。
そのきっかけが、オノ・ナツメ著の『ハヴ・ア・グレイト・サンデー』だ。
長らくニューヨークに暮らしていた小説家・楽々居輪治(ささいりんじ)は、とある事情からしばらく日本の一軒家で過ごすことになる。奥さんは一人ニューヨークに残され、気ままな一人暮らし生活のスタート。
……とはならない。日本に暮らす息子のマックスと娘婿のヤスが、彼が日本にいるのを喜んで毎週末ふたりで遊びにくるようになったのだ。この作品は、そんな3人が過ごす「日曜日」だけが描かれた作品。
まず、ダッドとして慕われる輪治さんが魅力的だ。色気とは教養から知識から醸し出されるものなのだろうか。こんな妖艶な紳士が自分のお父さんだったら私も毎週というか毎日通うわ、と思う。本屋に行けば人が群がる人気作家でありながら、決して驕らず、常に物腰やわらかなダッド。マックスのストレートな尊敬や愛情を受け入れる余裕も美しい。
そんなダッドとちょっと価値観や雰囲気の似ているヤスと、母親譲りの明るくて朗らかなマックスの3人が過ごす日曜日は、とても穏やかで、本当に慎ましやかなものだ。家でカレーを作ったり、ローストビーフを焼いたり、基本的には家で過ごす。
最新刊の2巻では輪治の奥さんが年末年始の休みに日本に来て、ちょっと賑やかな休日も描かれる。いずれにしても、そこには忙しない日々はなく、非日常的な時間が流れている。完全なるオフの休日。仕事のことを思い出さない休日。大好きな人と過ごせばなんだって輝かしく楽しくなる休日。そんな休日、最後に過ごしたのはいつだろう。
2巻には番外編として、マックスとヤスの平日も描かれるが、それも仕事終わりの休日みたいな平日の話だ。
読んでいると、人生を豊かにするのは、やっぱりこういう休日があってこそだよな、と思う。ワーカーホリック気味の人にこそ読んでほしい、人生を楽しむことが上手な3人の、かけがえのない「日曜日」。
©オノ・ナツメ/講談社