2020.07.27

【インタビュー】『星屑テレパス』大熊らすこ「叶うわけないと諦めず、子どものころの夢を追いかけてみて」

その日出会った宇宙人の女の子は、どこかへ逃げ出したいと思っていた私の心を光線銃で打ち抜いた──。


「わたしたちは、おでこで繋がる」

人とうまく話せない小ノ星海果(このほし・うみか)は、宇宙に行くという大きなを持ち、どこかに自分の言葉が届く相手がいると淡い希望を抱きながらも漫然とした日々を過ごしていた。そんなある日、海果は自らを宇宙人と名乗る少女・明内ユウに出会う。勇気を振り絞り、宇宙人の仲間になりたいと素直な気持ちをユウに伝えた海果の世界は、ときめきに満ちたものへと変わっていく。

「希望」、「夢」、「勇気」、「ときめき」。きらきらとした輝かしい日常を読者に届けてきた「まんがタイムきらら」の次世代を担うガール・ミーツ・ガールストーリー『星屑テレパス』の第1巻が、7月27日に発売されました。

これを記念して、作者の大熊らすこ先生にインタビューを実施。デビューのきっかけから現在までの軌跡を振り返っていただきました。

(取材・文:ましろ/編集:八木光平

『ひだまりスケッチ』は自分のバイブル

──本日はインタビューをお受けいただきありがとうございます。

大熊らすこ先生(以下、大熊):こちらこそありがとうございます。インタビューしていただけるくらい自分の作品に興味を持ってもらえていることが本当に嬉しいです。

──大熊先生はSNSやブログをされていないので、取材なども受けない主義なのではないか……と内心どきどきしていました。

大熊:たしかに、自分のことを言葉や文章にするのは苦手ではあります……。SNSをしていないのもそれが理由のひとつなんですけど、だからこそ今回は、自分の考えを読者さんにお伝えできるよい機会でもあると思いました。何でも聞いてください!

──お言葉に甘えさせていただきます。まず、大熊先生がマンガを描き始めたのはいつですか?

大熊:初めてマンガらしいものを描いたのは小学1年生のときでした。クラスの友達がみんなイラストやマンガを描いていたので、私もその流れで。

──子どものころはどんなマンガを読んでいましたか?

大熊:「コロコロコミック」に載っている作品や、ゲームのアンソロジー4コマをひたすら読んでいた気がします。

そのアンソロジーの中でも荒井チェリー先生と湖西晶先生のマンガが好きで、よく模写していました。今、そのおふたりと同じ「まんがタイムきらら」で連載しているなんて、当時の私に言っても信じてもらえないでしょうね。

──きららを知ったのもその流れで?

大熊:いえ、アンソロジー4コマが直接のきっかけではなく、きららを知ったのは蒼樹うめ先生の『ひだまりスケッチ』からです。最初は単行本で読み始めて、その流れでときどき雑誌も買うようになりました。

──『ひだまりスケッチ』は名作ですよね。きららの創刊初期から連載しているのに、いまだに第一線で活躍され続けているのがすごいなと。

大熊:本当にそうですよね! 4コマといえばギャグ要素の強いものというイメージがあったんですけど、4コマなのにこんなにかわいくて心が満たされるような世界が描けるんだ……と衝撃を受けて。

もちろん他のきらら作品も好きですけど、私にとって『ひだまり』はバイブルと言ってもいいくらい特別な存在で、これまでに何度も読み返しました。

マンガ家を目指すきっかけになった、ある言葉

──きららには持ち込みでデビューされたんですか?

大熊:はい。大学生時代に「マンガ家を目指そう」と思うようになった出来事があったんです。そうすると、きららでいつも読み飛ばしていた「投稿&持ち込み大募集」のページが急に目にとまるようになって、なんとか原稿を描いて芳文社さんに持ち込みに行きました。

──その経緯を詳しくお聞きしたいです。

大熊:インタビューって、やっぱりこういうこと聞かれるんですね。恥ずかしいな……(笑)。

順を追ってお話しすると、大学生のころ、いろいろな事情で学校の教室に通えなくなった生徒たちを支援するアルバイトをしていました。私も高校時代に学校に行けなくなった時期があって、そういった子の力になりたかったので。

その中の生徒のひとりが、学校で配られた進路希望調査が書けないと悩んでいたんです。本当は大きな夢があるけど、どうせ叶いっこないし言っても笑われるだけだから、大人が満足するようなことを書くしかないのかな、って。

──夢を諦めてしまっていたんですね。

大熊:私も立場上、「そんなことないよ」「正直に本当の夢を書いてみようよ」と言ったんですけど。そういう自分は本気で夢を叶えようと努力したことがあるのか? と、その言葉がブーメランみたいに戻ってきたんです。

私も小学生のころはマンガを描くのが好きだったはずなのに、あるときマンガ家になれるのは一部の才能や環境に恵まれた人だけだと悟ってしまい、描くこと自体をやめてしまいました。その子と話をしながら、なんだか今までの自分の人生がすごくちっぽけに思えてきて……。

──それであらためてマンガ家を目指そうと。

大熊:ちょうど就職活動を始めないといけない時期でしたし、一度くらい子どものころ憧れていた仕事に玉砕覚悟でチャレンジしてみようと思ったんですよね。

たとえマンガ家になれなかったとしても、夢を叶えるために行動を起こした事実があれば、アルバイト先の生徒さんの悩みにもちゃんと向き合えるだろうし、これからの自分の生き方にも自信が持てるんじゃないかなって。

──ロケットを作って宇宙に行くという、海果の大きな夢にも通じるお話だった気がします。ご自身の体験から『星屑テレパス』は生まれたのでしょうか。

大熊:いやぁ、そんなかっこいいきっかけではなく……。夢を追いかける女の子はキラキラしていて素敵だなと思いながら描いていますが、キャラクターに自分自身を投影しているつもりは特にないんです。


自分の夢を抑圧していた海果

ストーリーにしろキャラクターにしろ純粋な物語が好きなので、人間である以上どうしてもきれいじゃない部分もある私は作品にとって不純物でしかありません。読者さんにも、あくまで作品は作品として楽しんでいただけたら嬉しいですね。

一瞬のひらめきから生まれた「おでこぱしー」

──現担当さんは、いつから大熊先生の担当編集をされていますか?

担当:2018年の秋ごろからなので、『星屑テレパス』は1話目からずっと自分が担当しています。ただ、僕が担当になってから考え始めたわけじゃなく、もともと大熊先生の中に構想はあったんですよね?

大熊:はい、細かい部分は考えていませんでしたが、大まかな設定は初代担当さんにチェックしていただいていました。ガール・ミーツ・ガールもので、主人公は引っ込み思案な女の子で、ロケットを作って宇宙に行くのが目標という『星屑テレパス』のプロットはその時点でほぼできていましたね。


『星屑テレパス』第1話

──担当さんは、そのプロットを読んでいかがでしたか?

担当:大熊先生の持ち味でもあるキャラクター同士のあたたかな関係性が感じられる内容でしたし、きららの読者さんには刺さるんじゃないかなと思いました。

ただ、将来この作品が単行本になることを考えたとき、雑誌を読んでいない人にも手にとってもらえるような取っかかりが少し弱いような気もして……。その懸念を先生には正直に伝えました。

大熊:そうです、それを言われて「おでこぱしー」を追加したんです。本当に助かりました!

担当:僕はざっくり「取っかかりがほしい」と言っただけなので、そこから「おでこぱしー」というとんでもない発明を生み出したのは大熊先生の才能に他ならないですね。

大熊:恐縮です……!


読者の心も打ち抜かれた

──率直な話、なぜ「おでこぱしー」だったんでしょう……?

大熊:まず、主人公の海果は恥ずかしがり屋で、相方のユウはテレパシーが使えるという設定が前提にあって。そこにポップさとか、純粋さとか、ちょっとドキッとする要素とかを入れられないかと考えていたら、「おでこぱしー」だ! って急にひらめいたんです。

──「おでこぱしー」という単語も?

大熊:奇跡的に降りてきてくれました(笑)。

──『星屑テレパス』というタイトルも、音の響きがよくて思わず口にしてみたくなります。他のタイトル案はありましたか?

大熊『ハロー・ブルー』のようなかっこいい系から、『はじめまして、宇宙人さん』みたいな変化球まで色々考えました。個人的に一番いいと思ったのが『星屑ロケット』で、担当さんから「テレパス」という単語をいただいて、そのふたつをくっつけた感じです。

──担当さんとの合作だったんですね。

大熊:担当さんはタイトルだけじゃなく、雑誌の扉絵のキャッチコピーも考えてくれているんですよ。単行本には収録されないのがもったいない……。

担当:大熊先生がいつも素晴らしい扉絵を描いてくださるので、キャッチコピーも含めてひとつの芸術作品になるようにこだわっています。考えるのに2日くらいかけてしまうときもありますね。

──「目指す場所(ふたりのきぼう)」や、「宇宙(ゆめ)は目指す(かなえる)ためにある」といったルビの振り方が作品の世界観にもマッチしていて印象的でした。

大熊:あれらのキャッチコピー、私が考えていると思っている方もいるかもしれないので、この場を借りて訂正させてください。全部担当さんのおかげです!

──今回の記事でもしっかり言及させていただきます。

担当:なぜ僕が持ち上げられる流れに……?


担当さんが考えた素晴らしいキャッチコピー

少しずつ成長していくのが、海果らしいNEXT

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ましろ

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