2018.09.12
【日替わりレビュー:水曜日】『私の拳をうけとめて!』murata
『私の拳をうけとめて!』
元ヤンキー少女が元ヤンキー少女に恋をした
かつてのヤンキー高校生女子たち。大人になって、友達はみんなやんちゃをしなくなり、家庭を持つようにすらなった。武部綾子も大人になって焦り始めた。このままじゃまずい、自分もまずは見た目から脱ヤンをしよう。
そこで入ったアパレルショップ。働いていたのは、高校時代の天敵だった、空森綺羅々(そらもり・きらら)。通称「血染めのカーディガン」。
戦々恐々とする武部。空森が彼女に、店員らしく振る舞いながら渡した名刺の裏には、果たし状が! 大人になってもケンカせざるを得ないのか。しかし空森の発言は意外なものだった。
「もしこの勝負に私が勝ったら…つ つつ…付き合ってください!!」
ヤンキーキャラは、百合やBLとすこぶる相性がいい。憎しみを抱くほど天敵のことを考え続けている様子は、ほぼ愛情と変わらないからだ。真正面からの決闘なんて、愛の告白そのものだ。
またヤンキーキャラは実直な場合が多い。自分に嘘がつけないからヤンキーやっているので、お互いの気持ちや信念が伝わる様子が見えやすい。空森が武部に対して恋心を抱いたきっかけも、武部の正々堂々とした一本気なところに惹かれたからだ。
今回の作品は、ヤンキーから卒業しきれなかった大人を描いている。周りが成長し、自分だけ取り残される焦燥感。だから二人共必死に流行に乗ろうとするも、正直すぎて不器用なため失敗続き。空森は、武部が脱ヤンキーするのに反対なようだ。
この作品での「ヤンキー」は、あまり悪事的なものとして描かれていない。
あまり迷惑ごとはせず、タイマンで力比べのケンカをするのが好きだった武部。ヤンキーになるつもりはないのに、降りかかる火の粉を払っていたら巻き込まれてしまった空森。二人共、自分の生き方を貫いているだけ。だったら空森が、高校生当時の一直線な気持ちのままの、かっこいい武部でありつづけてほしい、無理に成長しないでほしいと願ってもおかしくない。
「自分の生き方に誇りを持っている人が好きって言ってくれたこと 忘れてないよ」
大人になるとき、失うものはどうしてもある。しかしそれは損失ではなく、昇華させて自分の成長にすることだ、と感じるのはもっと年をとってからの話。高校時代を引っ張りすぎて、大人になりきれない武部と空森。2人の関係が進展していく時、子供のままでいたいのか大人になりたいのか、各々に答えを出さない限りは恋愛は迷走しそうだ。
今の所、色っぽい展開はなし。お互いあまり高校時代と変わっている様子もない。まるで高校生の恋愛のようにぎこちなくて、ニヤニヤさせられる。
©murata/KADOKAWA