2018.09.07

【日替わりレビュー:金曜日】『理想的ボーイフレンド』綾瀬羽美

『理想的ボーイフレンド』

綾瀬羽美先生の『理想的ボーイフレンド』が、先日7巻で完結しました。

強引男子が好みの結沙は、バスケ部の西崎先輩がタイプで、友達の奈々未を連れて追っかけていた。けれどある日、奈々未と先輩が急接近!奈々未を応援するため、「他に好きな人ができたの!」とウソをついた結沙。たまたま近くにいたクラスメイトの春田くんがその作戦を察してくれて…?”

綾瀬羽美先生から感じる異質さ

綾瀬羽美先生ってのは、「別冊マーガレット」の作家陣の中でも結構異質な部類だと思うんですよ。別冊マーガレットって、絵に描いたような王道の青春模様で、恋愛もあれば友情まで織り交ぜてくるような、地に足ついたストーリーが核にあるイメージ、ないですか?

わかりやすいところで言うと、河原和音先生(『素敵な彼氏』『青空エール』など)とか、椎名軽穂先生(『君に届け』など)とか。青春の輝きも、青春の苦しみも、キャラクターから発せられる感情の数々はフィクションでありながら、リアルへと地続きになっているような、血の通った感じ。

どの作品にも、多かれ少なかれそういったリアルへとつながっていく糸のようなものが感じられるのですが、こと綾瀬羽美先生の作品は、それがほとんど感じられないんです。

作品が取っているフォーマットは、学校を舞台に女の子と男の子が恋をするっていう、他と変わりの無いごくごく普通の形式なのですが、読んでいて受ける感覚は決定的に何かが違う。それはキャラクターであったり、シチュエーションであったり様々な要因があると思うのですが、読んでいても「うん、これは完全にフィクションだな。作り物だな。」とわかるというか、むしろ積極的にそれを表に出していっている感すらあるのです。

リアリティの無いキャラクター・エピソード

例えば主人公の結沙はドMで、ドSで高慢で上から目線で偉そうな態度を取るタイプの男の子が好み。そういう人を前に、めちゃめちゃときめくわけですが、そのトキメキ方やスイッチの入り方がやや病的で、明らかにデフォルメされたものとなっていて、リアリティとは離れたところにいる感じ。また相手役のくんは全くもって空気の読めない天然理系な男の子で、これまた現実感の無い存在となっています。

キャラクターが醸し出す“作られた感”は、別冊マーガレットというよりもむしろ、「ASUKA」とか「シルフ」とか「ビーズログ」とか、よりオタク女子的要素の強い媒体でこそマッチしそうな雰囲気があります。“アニメ的”というか。実際読んでいても「あ、綾瀬先生って絶対オタクだな」ってわかるんですよね。実際どうかは知らないのですが、絶対そうだという確信があります。

ここまで書いていて、まるで貶めているように感じられる人もいるかもしれませんが、違うんです。自分が伝えたいのは、この異質さこそが綾瀬先生の魅力であり、だからこそ楽しめる世界がそこにはあるということなんですよ。

純粋なエンターテインメントとして楽しめる凄さ

キャラクターも「現実感が無い」と言いつつも、強烈キャラの出落ちという感じではなく、普通の人達が持っているであろう性癖や特徴を過剰に強調したという方向で、学校が舞台の青春ストーリーという枠自体にはしっかり収まるんですよ。でもやっぱり、そのキャラクターのリアクションだったり、不意に起きるハプニングだったりが、「現実的にはありえないけれどアニメやマンガ的にベタ」というものを絶妙に選び取っていって、めくるめくフィクション=夢の世界が広がっているという。

リアルへとつながる作品というのは、そのメッセージの強さから時に読んでいてダメージを受けてしまうことがあるのですが、本作の場合は感覚的に現実とはキレイに切り離されているため、純粋にエンターテインメントとして楽しむことができるんです。

その最たる例が、途中に登場するイケメン俳優・絢人。あろうことか、押しも押されぬイケメン俳優と知り合い、なんでもないヒロインが彼から好かれるという夢想的な展開を見せることになるのです。

少女マンガにおいて、いわゆる業界人が登場したりすることはちょくちょくあるのですが、現実ベースで展開する場合、リアルなラインを狙って読モとかになることが多いなか、こちらは人気俳優ですから、そのレベルが違いすぎます。普通こんな展開になったら「ありえないから」とそっぽ向かれかねないんですけれども、本作の場合は「フィクションだから。」「夢物語だから。」という前提があるので、こんな展開も「うん、アリアリ。」と腑に落ちてしまうという。

脇役が素晴らしい

キャラクターもメインの2人のほか、脇役たちもそれぞれ個性的で本当に素敵なんですよ。異様にアホで前向きな男友達や、超絶強かで頼もしくて男らしい美少女や、娘を溺愛しすぎて変になってるお父さんとか。みんないそうでいないだろうなって感じの人達なんですが、その誰しもが愛らしい

ライバル的ポジションで登場する八重って子がいるんですけれども(超絶強くて頼もしくて男らしい美少女)、この子が本当に魅力的すぎて、彼女を主人公にして続編やってほしいぐらい。バレンタインでの一幕といい、最終巻のホテルでの一幕といい、どうしてこの子はこんなにもカッコいいのか。後半に関して言えば完全にヒロインを食っている感もあり、読む際は是非とも注目して頂きたい。ぶっちゃけ、途中から彼女のために単行本買ってる感じすらありましたらからね。

というわけで、毎度ながらとりとめのないレビューとなってしまいましたが、理想的ボーイフレンド、超絶オススメです!

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いづき

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