2018.09.29
【日替わりレビュー:土曜日】『ゾンビバット』松林頂
『ゾンビバット』
本日とりあげるのは「comicメテオ」で連載中のWebマンガ『ゾンビバット』。
最近、初単行本が刊行されて丁度いいタイミングなのでご紹介したい。
大量の死人たちが動き出し人々を襲うゾンビパンデミック。その発生から四ヶ月が経過した。
この世は半ば地獄と化して荒れ果てたが、それでも人間たちは武器を手にとり、バリケードを築いて安全地帯を確保し、秩序を取り戻そうとしぶとく抗っていた。そんな中、とある町の片隅に、ゾンビ退治を自らかって出て町のパトロールをしている有志の少女がいた。
彼女の名前は「ヒミコ」。黒髪ロングストレートにセーラー服という楚々としたたたずまいをしながら、手に携えた一本の野球用バットで無表情かつ機械的にゾンビを殴り倒していく不思議な趣の女の子だ。
老人でも、ゾンビなら殴る。
子供でも、ゾンビなら殴る。
顔見知りでも、ゾンビなら殴る。
一匹でも、群れでも、ゾンビであればひたすら殴って殴って潰してまた殴る。
ゾンビ殴るべし! ワッショイ!
という具合に、ニンジャスレイヤーならぬゾンビスレイヤーと化したヒミコの姿を追いかけて「セーラー服女子高生がバットでゾンビを殴る」というキャッチーな構図を徹底的に……ほとんどフェティシズムの域に踏み込んで……たんねんに描きこむサバイバルホラーになっている。
劇中、ゾンビになった母親をかくまう娘「ワンコ」という登場人物と関わり合うヒミコがひどくシビアな物言いを投げかけるくだりがある。そこにはヒミコ自身が母親との関係に複雑なアヤを生じていた様子がちらちらと漏れ出ており、最近配信された第7話からついにそのあたりを具体的に描く過去回想へ突入した。
そこに織り込まれている要点は、この世にあって「少女が生きる」ということは物理的・精神的なやるせなさが様々につきまとうということだ。ゾンビ災害が起こらなくても、町が荒れ果てていなくても、親が健在でも、ある意味でのサバイバルをしなくてはいけない存在というのはあるのだ。
選択の余地なく、自分はこうなった。自分が生きたいなら他を殺したいと思って当然のはず……。
この少女が殴りたいもの、あるいはすでに殴ってしまったものは、本当は何なのだろうか? そう考えながら読み進めると、本作は特殊な舞台を介して逆説的に普遍的な感傷をつづった、いたく立派な“青春コミック”でもあるのだと気づかされる。
©松林頂/フレックスコミックス