2018.10.07

【日替わりレビュー:日曜日】『不死の稜線』八十八良

『不死の稜線』

現在6巻まで刊行されている、「ハルタ」(KADOKAWA)の人気作品『不死の猟犬』。その続編であり新シリーズである本作『不死の稜線』(しなずのりょうせん)で、このタイトルは真に覚醒した、そう言い切ってしまっても過言ではないでしょう。こりゃまた、めちゃくちゃおもしろくなってきましたよ。

本シリーズの土台としては、人が老衰以外で死なず、車にひかれても銃で撃たれても無傷で「復活」するという世界が舞台。しかし、そんな復活することが当たり前の世の中において、「復活不全症(RDS)」と呼ばれる病が人々を脅かしており、この病気に感染した者は死んだら復活することなくそのまま死んでしまうというのです。

このRDSをばらまき人々を死に至らしめる犯罪者「ベクター」、ベクターを守ろうとする謎の「逃がし屋」(組織)、そしてベクターを狩るために逃がし屋と日々交戦を続ける「警察」という、三つ巴の戦いと各者それぞれの思惑の様子が描かれており、『猟犬』では基本的には「警察」サイドの面々が主人公におかれておりました。

この死んでも「復活」するという設定を活かし、(警察も含め)各面々は自分であろうと一般市民であろうと、銃で撃つは刀で斬るわのやりまくり。もちろん、画力や土台の設定の妙、魅力的なキャラクター、練り込まれたサスペンスといった他の作品にも秀でた要素は多々あるのですが、血しぶきや肉片が舞い散る容赦のない戦闘シーンが凄まじく、『猟犬』はスプラッターなバイオレンスアクションという印象がかなり強かったと思います。

また「逃がし屋」が体から生やした帯状の人間離れした特殊な武器を用いたり、人類だけが死なずに復活するという世界の理自体が何者かによって設定された「システム」であった、というSF的な展開など、一歩間違えればなかなかに突飛で、読む人を選ぶ作品であったということは確かではありました。

対する本作『不死の稜線』の主人公は、ごく普通の高校生、若林雄貴。『猟犬』でも活躍した、警察の対ベクター特別班のメンバーの1人「若林正輝」の弟です。この雄貴が、図書館でよく見かけるもこれまでは遠くから眺めているだけだった憧れの年上美女・久我カオリとふとしたきっかけで接近、一気に距離を近づけていきます。しかし、カオリには彼に内緒にしていたヒミツがあって…というのが導入部分。

本作の重要な設定の1つに、ベクターを愛してしまうことによって、人間はRDSにかかり「復活」が出来なくなる、ということがあるのですが、そう、カオリは「ベクター」であり、本作はベクターの視点でストーリーが展開される、というのが特徴です。

『猟犬』では悪の存在として描かれていたものの、ベクターは基本的には復活能力はなく(ある条件を満たしたら組織から復活能力をもらえる)、様々なタイプはいるとはいえ、この世界では種としては圧倒的弱者。しかしただ愛されてしまっただけで、相手にRDSを発症させてしまうため、愛していたとしても相手のことを思うと近づきすぎることができない、という理不尽さを背負わされている、悲しい存在でもあるのです。

この哀しくも辛い「愛」の物語としての側面にじっくりフォーカスをあて、この1巻ではまだ、『不死の猟犬』のようにドンパチやっていません。

なんと1冊丸々使って、この雄貴とカオリの心の繊細な機微を丁寧にすくった、切ないラブストーリーが描かれています。正直言って今後の展開には不穏な予感しかしないのですが、この「ベクターサイド」のストーリーとしては抜群の序章に仕上がっているのです。

あと、とにかくカオリさんが「方言あり・お茶目さあり・スキあり・憂いあり・肉感あり・セクシーホクロあり」など、年上女性の良いところを全部載せしている半端ないかわいさなので、絶対チェックして頂きたいところ。

『猟犬』と『稜線』との間にもちろん繋がりはあるものの、本作から読む、でもひとまずは大丈夫。こちらが気に入ったら、ぜひ『不死の猟犬』も読んで見て下さいね。

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コミスペ! 編集部

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