2018.10.13
【日替わりレビュー:土曜日】『皇帝の一人娘』 RINO,YUNSUL
『皇帝の一人娘』
本日は、Webサイト「comico」およびアプリ「ピッコマ」で配信されている女性主人公の異世界転生ファンタジーマンガを紹介したい。
とある世界のとある時代に、ひとりの皇帝がいた。
覇道を突き進み、即位5年足らずで十もある周辺諸国を支配下に置いた暴君、人呼んで“血の皇帝”。
妃の座を狙って近づいた大勢の女たちが子を身ごもったことを理由に言い寄るもすべて処断されてしまった……と言われており、外敵どころか自分の血筋にさえも容赦ない姿勢によって国内でも畏怖される存在であった。
そんな彼のもとに、ひとりの子供が生まれた。女の赤子である。
皇帝はこの女児だけ命を奪うことなく、「アリアドネ」の名を与えて手元に置いた。
いったいどういう気まぐれなのか。
乳母たちは困惑する。そして、赤ん坊自身も困惑していた……困惑する自我がすでに彼女にはあった。なぜなら、彼女の意識は現代日本で25年間生きた成人女性のものだったからだ。
生前、見ず知らずの人間によって惨殺された女性が異世界に転生したこの赤ん坊は、ろくに動きもしゃべりもできない身で必死に周囲を観察し、己の境遇を見定めていく。
言動は冷たいが、しきりに子供の様子を見にきては気にかける皇帝は一体何を考えているのか?
彼が抱える“呪い”とは何か?
他人に血を流させてきた皇帝と自らの血を流して新たな生を得た皇女の、緊張感に満ちた父子関係はいったいどこへ向かっていくのか……。
という筋で、連載とともに主人公アリアドネはじわじわと月日を重ねて成長中である。
最新話が100話台に入った現在は言葉を話せるようになり、父帝をはじめ他の登場人物とのコミュニケーションも活発化。お付きの任を受けた美青年騎士との関係をまじえて新たな展開を進めている。
公式のあおり文句は「新感覚ツンデレパパ更生ストーリー」だが、ここでいうツンデレは内心のデレに照れ隠しでツンツンしてみせるという意味ではないだろう。どちらかというと、芯から心を凍てつかせていた男が本人も気づかぬほど少しずつ雪解けしていく流れを示すものだ(ツン→デレ)。
征服した国から人質に送られてきた姫君が勝手に自分より先に子供を抱っこしてしかも泣かせたから……なんて理由で即座に処刑を思いたったり、赤ん坊の「指一本触れれば壊れてしまいそうな小さな命」をうまく形容する言葉が思いつかず「虫みたいだ」と言ってしまうなど、皇帝が暴君であること自体は事実である。
実はいい人で……と描いているわけではなく、だからこそ“更生”の二文字が実はかなり重い意味を帯びてキャッチフレーズに入っているのだ。
さずかった子供を自分のモノ、所有物と考えてはばかりない男が、一個の人格ある存在同士として親子関係を結んでいくために必要なものは何か。
子供が生まれるということは親である人間がそこにいるということではない。子供と同時に「親になる」人間が生まれ、親としての成長が始まるということなのだ。そう言ってみれば、ファンタジーの形を介して存外に普遍的な主題を描いていると言えるかもしれない。
大人の魂を宿した子供に照らされることで、それがより一層きわだつのが本作の面白いところだ。
©RINO,YUNSUL/KADOKAWA