2018.10.23

【2018年9月】マンガ家が選ぶ 今月の注目!新連載マンガ

毎月100本以上の新連載が始動しているマンガ戦国時代とも言うべき昨今。その中でも、マンガ家たちが注目した作品をピックアップしていく本連載。

今回は、2018年8月27日~2018年9月23日の間に始まった新連載マンガから「マンガ新連載研究会」(マンガ家による勉強会サロン)が着目した作品を紹介いたします。

『ゼロから始める事故物件生活』

「事故物件住みます芸人」として知られる芸人、松原タニシ氏。これは番組の企画で事故物件に住むことになった松原氏のドキュメンタリー風マンガです。

マンガは、実際に起こった「面白さ」をそのまま描いても面白くならないメディアであると言われています。今回の話にしても、現実の事故物件生活でそこまでドラマチックな恐怖が発現するとも思えず(本当にヤバいこと起こったら松原氏もう死んでますよね)、リアルに体験したり聞いたりすれば背筋がゾクッとするような話でも、デフォルメ(強調)が基本のマンガというメディアでは「刺激に欠けた話」となりかねません。

しかし、本作は松原タニシ氏の芸人成長物語としても読める形に作られており、その点がカバーされています。松原氏は実際にこの事故物件企画を通して、「事故物件住みます芸人」として成功したのですから。

現実に根ざしているからこそ強く描けない恐怖要素を、現実に根ざしているからこそ描ける実在人物の成功譚として成り立たせる。そんなユニークな作りの作品です。
 

『グランジェリー』

オット! これは頭が悪いのでは!? 主人公の女子高生・結衣下着のためなら命を賭けられる系の女子! ぱんつがトラックに轢かれそうになったら危険を省みずに身を投げだして救います!(ぱんつを)

そんな彼女が不思議な縞パンを履くことにより、戦士として覚醒し、欲望の怪物ネイキッドと戦うのです。これはたぶん……変身ヒーローモノだ!

パンクラチオンならぬパンチラクオン、パンドラの匣ならぬパンチラの匣など、無理矢理ぱんつに絡めたひどいダジャレで押し切る終盤のテンションには、読んでいて「へなへなへな~~」と脱力させられます。

そんな脱力ギャグ展開をフォントなどのデザインセンスを駆使することにより、なんだか『キルラキル』的なオシャレカッコ良さに見せている本作。だが、本当に大丈夫なのか!? この頭の悪さ、本当にオシャレカッコ良さで押し切れているのか!? 相当に頭悪いけど大丈夫なんだろうか! 

『セブンティドリームズ』

70才老夫婦の妊娠、出産を描いた『セブンティウイザン』の続編が登場! そして、読み終わった後に、「エッ、これ、ノンフィクションじゃないよな!?」と慌てて確認してしまった、そんな作品。

本作は柔らかなタッチの絵で綴られる、すごく等身大な老後の夫婦の物語です。娘との関係や、夫婦間での子育ての役割分担など、なんらマンガ的に刺激的な内容ではないながらも、丁寧に描かれた子育て描写と家族間の心の交流には、否応なくほっこりさせられます。

ああ、この家族の、さして何事もない平和な子育てをずっと読んでいたいなぁ……。と、そう思わせてからのラストページ! 読者はそこで、この作品が「子育て」+「終活」マンガであることを知るのです。うおおお……実話だったら耐えられなかった! フィクションで良かった~~。

『アイアンスノー』

これはとっても不思議な作品です。主人公は高校生男子、元空手少年、そして中2の頃に、想いを寄せていた先輩に告白するも「『愛してる』ってどういうことか、ちゃんと分かるようになったら」と言われてフラれ、その先輩の言葉にずうっと悩み続けています。

が、それはそれとして、冒頭からセックスしています

相手はもちろん先輩ではなく別の女性。バツイチの女性。しかし、決して遊びではなく、真剣に相手の事を想っており、

「『愛』なのか分からないけど、守る力が欲しい。肉体的にも、社会的にも……」

と告白します。お母さんを相手に

とにかく特殊な主人公なのです。ものすごく純粋で、真っ直ぐで、嫌いになれない。でも、全く感情移入できない宇宙人みたいなすごい特殊な奴なんです。先輩のことが好き。ずっと悩んでる。なのにセックスはしてる。その相手にも好意を持っている。自分には守る力が足りないと感じている。そんなことを母親の前で表明する。守る力を得るために体を鍛える。真っ直ぐなことは間違いなく伝わるけど、真っ直ぐすぎて何かがズレている。絶対にイイやつなんだけど、ぜんぜん思考をトレースできない。

これほど感情移入を拒む主人公は珍しい気がします。何を考えているのか全く分からない冷徹な殺し屋のようなキャラではなく、部分的には十二分に理解できるのに全体的に見ると同じ人間とは思えないくらい異質。そして、そんな主人公が活躍する本作も、いったい何マンガなのか全く分からない。たぶんサスペンスなんだと思うけれど、ひょっとしたらハーレムマンガなのかもしれない。……分からない!



以上、100作品以上の中からピックアップした4作を紹介いたしました。他にも特筆すべき作品は幾つもありましたので、新連載作品に興味を持たれた方は、こちらから色々な作品を読んでみてくださいね。

この記事を書いた人

架神 恭介(@マンガ新連載研究会)

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