2018.11.09
【日替わりレビュー:金曜日】『恋と心臓』海道ちとせ
『恋と心臓』
なんか先週もひとつ屋根の下ものをご紹介したような気がするのですが、懲りずに今回もです。だって好きなんだもの。
本作『恋と心臓』は、イケメンとひょんなことから同居生活をするという、一見ウキウキハッピー(偏差値低そうな表現)な王道少女マンガ的シチュエーションなんですけれども、表紙の雰囲気からも窺えるとおり、一筋縄ではいかない、ミステリアス&サスペンスな要素を含んだ異色作となっています。
物語の主人公は、実家で一人暮らしをしている大学1年生・羊。ある日、幼馴染を名乗るイケメン・春馬と同居をすることになるのですが、羊には、なぜか彼に関する記憶が一切ナシ……。そしてその頃から、羊の周りでは不穏な出来事が次々に起こるようになり……というストーリー。
幼馴染だという、帰国子女のハイスペックイケメン。しかもめちゃくちゃ優しくて、ピンチのときに颯爽と現れては、羊のことを助けてくれる。それもストーカーに対して毅然と対応するとかいうだけじゃなくて、暴漢にだって余裕で勝利できちゃうみたいな、もう欠点が一つも見当たらないようなヒーロー。
でも、その「かゆいところに手が届きすぎる」感じが、いかにも怪しい。偶然起きた出来事も、自ら仕組んでいるのではないかと勘ぐりたくなるぐらいのタイミングの良さなんですよ。また何か怪しい思惑を働かせている描写があったりと、せっかくのハイスペック男子を、素直に堪能することは一切出来ません。あからさまに怪しいので、常に警戒しながら読み進める感じです。
ヒロインの羊も、なんとなく疑いの念を抱いたりもするのですが、春馬の方が何枚も上手なので、結局その疑念もサラリと晴らされてしまうという。明らかに羊に対して隠し事をして、何か目的を果たそうとしているのですが、その狙いがわからないのが、気持ち悪くて面白い。
恐ろしいほどに好かれているようにも思えるし、もしかしたらそう見せておいて、あとでこっぴどく裏切ろうとしているようにも感じられるしで、まあなんというかスッキリしないのですよ。未だかつてここまで胡散臭いヒーローを見たことが無いかもしれない。単行本の帯には「ヤンデレ」って書いてあるんですが、これはヤンデレなのだろうか……。ずる賢いヤンデレってまじで恐ろしくないですか。
というわけで、イケメンとの同居ものでありながら、甘くて柔らかい雰囲気は一切なし。むしろこれをひとつ屋根の下のジャンルに入れてしまってはいけないのかもしれません。一方で、この怪しさ満点な男に、ミステリー方面で強く興味が引かれるのも事実。いやスッキリしないがために、異様に続きが気になってしまうのですよ。
なんというか、自分まで春馬にしてやられている感じがして悔しいんですけれども。というわけで、このハッキリとしないイケメンとの危険な同居生活、あなたも覗いてみてはいかがでしょうか?
©海道ちとせ/白泉社