2018.11.20
【日替わりレビュー:火曜日】『大蜘蛛ちゃんフラッシュ・バック』植芝理一
『大蜘蛛ちゃんフラッシュ・バック』
「女の子の唾液って!」この一言だけで、どのマンガかおわかりの方も多いハズ。オンリーワンの個性を放つ『謎の彼女X』。フェティシズムだけではなく、ヨダレで感情が交錯する不思議さ。揺れる思春期の初々しさ。青春劇にミステリアスなSF要素を付け足すことで、独自の地位を築きました。
その植芝理一先生の新シリーズ『大蜘蛛ちゃんフラッシュ・バック』も、期待を裏切りませんでした! フェティシズムと不思議要素の加わった、極上のSF青春マンガになっております。
男子高校生の鈴木実(すずき みのる)は時々、死んだ父親の記憶がフラッシュ・バックしてしまう。決まって映るのは、高校時代の母親ばかり。目の前の母親が女子高生だった頃の面影が重なり、父親の恋心も混じってドキドキが止まらない。幻覚と現実の狭間で生まれる、やり場のない感情に悶々とするのだった───。
今の姿と、女子高生時代の姿。息子にとっての母親と、父親にとっての好きな女性。二重の感情が重なる。行き場のないセンチメントの描き方が秀逸です。
現実で「だって母さんが再婚しちゃったら、イヤでしょ?」と語る、母さんの鈴木綾。
フラッシュバックで「だってわたしが誰かとつきあったら、イヤでしょ?」と語る、彼女の大蜘蛛綾(旧姓)。
(第一話より)
その記憶の重なりで、とっさに実がとった行動は……。グッとくる演出が各話に用意されています。『謎の彼女X』の唾液もそうですが、『大蜘蛛ちゃんフラッシュ・バック』のマザコン要素も、ギリギリ気持ち悪さを感じさせない、さじ加減が絶妙に上手いです。近親相姦への嫌悪感が、昔のJKの風貌で中和されているからなんでしょうか。
ブルマの後ろ姿。湯上がりのバスタオル一枚で、ギリギリ見えそうで見えないお尻。かがんだGパンからチラ見えするしましまパンツ。前作は「同級生の子の唾液」でしたが、本作は「お母さんのお尻」にフィーチャーしたフェティッシュを追求。誰もが平静じゃいられない魅力的なお尻を描かれています。
鈴木実が両親と同じ学校に通って、同じように漫研で親しくしている女子がいることもポイント。ここにも一個レイヤーが用意されていて、両親と同じ青春を、別の女の子と似たような体験をなぞるという多重構造になっています。
ちなみにお母さんはマンガ家。パンツにスパナを挟んでいる女の子が主役の『未確認彼女X』という作品を描いています。ん? どこかで聞き覚えが……もう、いろんなところにネタが仕込んであって最高ッス!
©植芝理一/講談社