2018.12.15
【日替わりレビュー:土曜日】『座敷娘と料理人』佐保里
『座敷娘と料理人』
本日ご紹介するのはこちら。スクウェア・エニックスの「ガンガンONLINE」連載作で、10月に単行本第一巻が出たこちら、『座敷娘と料理人』だ。
主人公・タオこと菅波多緒(すがなみ たお)は、これといった執着のない人生を送る若者だった。趣味は長続きしない。物欲も薄い。なしとげたい将来の目標もない。ただ稼いだお金を貯めるだけ貯めて、通帳の数字が増えていくさまが唯一の楽しみだった。
そんな彼はある日、アルバイト先のファミレスで先輩から不思議な短期作業を紹介される。
「田舎にある旧家の日本家屋で1週間一人で掃除やってお供え物作るだけ」
ただそれだけで100万円もらえるという。おいしすぎる……が、怪しすぎる。内容からして、もしや超自然的なナニかが“出る”のでは……!?
そんな予感はずばり的中。面接に合格したタオが現地を訪ねて問題のお屋敷に入るなり、身の周りを謎の気配が漂い、小さな笑い声まで聞こえてくる。やはりナニかがいる!
それでも100万円がほしいタオは怪奇現象を必死に無視して、台所でお供えの料理を作りはじめる。すると、ついに“それ”は直接に手を出してきた……脚をつついて膝カックン。反射的に「あっ…ぶねーだろうが!!」とツッコみ、うっかり目を合わせてしまったその相手とは?
それは、ちんまり小さな女の子。着物をまとって黒髪おかっぱにお花のかんざしを付け、さらには「のじゃ」口調が愛らしい、純和風お姫さま風の童女。彼女は“座敷神”というらしい。ひとの屋敷に棲みつき、自分の世話をする者に繁栄をもたらす超自然的存在である。
自分の作ったカレーをおいしいおいしいとはしゃいで食べる少女神の姿が胸にしみたタオは、バイト期間をいったん終えたあと雇い主に頼み込み、改めて住み込みのお供え仕事を続けさせてもらうことにする。
神様はタオを気に入り、願いをかなえてくれるという。その申し出に、未来への展望がない今の自分は答えを返せない。だから、すこし待ってもらおう。このかわいい神様のごはんを作って屋敷をきれいにお掃除しながら、なしとげたいことを探してみよう。かくして、お座敷の小さな神様と、その使用人になった人間の青年が共有する楽しい日々が幕開けた……。
という具合に、和風ファンタジーに料理マンガ要素を乗せて心温まるホームドラマ仕立てになっている。劇中に登場する料理がグルメ系作品のように凝ったものではなく、カレー・うどん・かき氷などごく身近なメニューなのがむしろ上手い。日常性が際立つからだ。また、それらを口にして無邪気に大喜びする座敷神こと“姫さん”の反応のほうに視点を集中させやすい効果もあるだろう。
限りある人生の自由を費やし、未来に対して精神的に足踏みしている人間。悠久の時を生き、同じ場所で変わらぬ姿のまま物事の移り変わりを見送り続ける神様。そんな対極的な存在が、おいしいものを作って食べる時間を共有し、心を重ねて絆を結ぶ。しみじみと穏やかな情感を味わわせてくれる作品だ。
ちなみに作者・佐保里先生は、神さまの領域にある小料理屋に迷い込んだ人間がもてなしを受けて励みを受ける『神様ごはん -小料理 高天原にようこそ-』を直近で描いている。
人間が神さまのためにごはんを作る本作とは背中合わせにあたる趣向なので、あわせて読んでみると互いに引き立てあって楽しみが深まるだろう。
©佐保里/スクウェア・エニックス