2018.12.17
【日替わりレビュー:月曜日】『ラムスプリンガの情景』吾妻香夜
『ラムスプリンガの情景』
年の瀬も近づき、各ジャンルのランキング本が発売され始めました。本作『ラムスプリンガの情景』は、「このBLがやばい!」のコミックス部門で見事1位に輝いた作品。おめでとうございます!! とても素敵な作品なので、未読の方はぜひ手に取ってみてくださいね。Amazonでは品切れしているようでしたが、電子なら直ぐに読めますよ~♪
さて、ラムスプリンガ……耳慣れない単語です。これは、アーミッシュ――ドイツ系移民が、電気やガスをほとんど使わない移民当時の生活を守り続け、農耕や牧畜によって自給自足生活を営む宗教集団──が、キリスト教徒としての教えを守りながらこのコミュニティに残るか、家族を捨て外の世界で生きるかを決めるための、俗世を体験する期間のことを指します。モラトリアムと見せかけて、選別をかける儀式のようなものなのですね。
生まれてからずっと禁止されてきた、聖書以外の読書、讃美歌以外の歌、ダンス、酒、タバコなどの娯楽も解禁されます。それらの娯楽に溺れてひどい目に遭って、やはり故郷での暮らしが一番! となるか、外で素晴らしいものを見つけて家族に一生の別れを告げるかという、人生を決める期間なのです。
そのラムスプリンガで街に出てきたテオは、バーで”売り”をやりながらバイトする元ダンサーの青年・オズと出会います。喧嘩が禁止の暮らしで、仲間を殺されても訴訟すら起こさないような生活をしてきたテオに怒りを教え、酒・煙草を教え、娯楽を教え、そして恋を教えてくれたオズ。
ラムスプリンガ期に娯楽に溺れて歯止めが効かずにドラッグに手を出す仲間もいる中、テオは堅実に住み込みでバイトをし、しかし、キリスト教では禁忌である男性・オズに恋をしてしまいました。
オズと故郷に帰ってしばらく一緒に暮らしますが、ある時、ふたりで裸でいちゃいちゃしているところを目撃され、その生活も終わります。オズは気軽に、街に戻って一緒に暮らして、たまに帰省すればいいとテオに言いますが、そんな半端な選択が許される集団ではないのです。テオは、故郷と家族か、それとも新しい世界を教えてくれた愛しい男のどちらかを選ばなければなりません。
まさに人生の取捨選択です。テオがどちらを選ぶのか。ダンサーとしての自分を諦めかけていたオズがどんな選択をするのか。ぜひぜひ、確かめてみてください。
©吾妻香夜/心交社