2018.12.25
【日替わりレビュー:火曜日】『レイリ』岩明均, 室井大資
『レイリ』
家族を惨殺された少女・レイリは、武田家配下の岡部丹波守に拾われることになる。死に場を求めて武芸達者に成長した彼女は、斜陽に傾く武田帝国と勃興する織田軍団の戦乱に身を投じていく───。
『寄生獣』は未来永劫、語り継がれる名作だと信じています。作者である岩明均先生が原作、実力派ベテラン・室井大資先生が作画を務める贅沢な歴史フィクション『レイリ』が実に良い。
必要最小限のセリフや情報量で構成されていて、物語の筋がスラスラ入ってきます。歴史モノは、そこがクドくなりやすいんですよね。特に、群雄割拠の戦国時代モノは、膨大な背景や人間関係が複雑に絡み合っていて、同じ人物なのに幼名があったり、戦略結婚で敵方に親子兄弟姉妹がいたりします。それなのに、見た目は全員ちょんまげのオッサン。わけわからん、となる。
また、歴史モノはハイコンテキストなジャンルなので、間口は狭くなりがち。ですが本作では、情報を削って削って、創作ヒロインのレイリと武田家重鎮に数を絞っているスタイルが、まず読みやすい。例えば歴史に詳しいクリエイターほど、真田昌幸についてあれこれ語りたくなってくるものですが、『レイリ』では「大勢いる家臣の一人」以上の描写はありません。ばっさり情報を捨て去ることで、シンプルな面白さを獲得しているのです。
そこに岩明均先生の人生観というか、世の中を俯瞰した哲学を乗せてきます。
先生の作品でたびたび描写される残酷な事件。『寄生獣』新一の母親しかり、レイリの家族しかり。主人公でも容赦しない突き放し方で、「この世は主人公に都合よくできてはいない」という冷静な視点を、先生の作品からは常に感じます。
しかし、それでも人は生き続けていく。
『寄生獣』の新一はミギーとの融合と親交で、感受性を変化させながら成長していき、『ヒストリエ』のエウメネスは、裕福な家庭から奴隷身分に墜ちても、村の諍いに巻き込まれても、マケドニアの書記官になりました。
対して、人としての心が欠落しているレイリは、武田信勝らとの交流で自身の死生観を変化させていきます。
ままならない残酷な現実を乗り越えて、主人公が少しづつ変わっていく。人生の有為転変を描く岩明均節が、『レイリ』でも存分に楽しめます。
©岩明均,室井大資/秋田書店