2018.02.15
【日替わりレビュー:木曜日】『北極百貨店のコンシェルジュさん』西村ツチカ
『北極百貨店のコンシェルジュさん』
鬼才西村ツチカの新境地。可愛いだけじゃないんだぜ。
2010年、短篇集『なかよし団の冒険』(徳間書店)でデビューし、同作品で第15回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞を受賞した、マンガ家でありイラストレーターとしても活躍する西村ツチカ。彼女の独特の世界観や唯一無二の画風、そして絶妙なワードセンスで運ばれる物語は、『かわいそうな真弓さん』(徳間書店)や『さよーならみなさん』(小学館)でより一層深みの増したものとなっていく。
かわいいけど、残酷で、ポップだけど、どこか距離を感じる。キュートな容姿に騙されてほいほい近寄ってしまったら、チクリと冷たい針で刺されたような気分になる。私は、そんな小悪魔的な魅力をもつ西村ツチカ作品にメロメロなのだ。
そして、私と同じような西村ツチカファンは、去年の年末大喜びしただろう。『北極百貨店のコンシェルジュさん』(小学館)と短編集『アイスバーン』(小学館)が、二冊同時発売となった。
今回はその片方である『北極百貨店のコンシェルジュさん』をオススメしたい。西村ツチカ作品デビューする上でも最もとっつきやすい一冊だろう。この作品でグッとくるものがあれば、ぜひ過去作品に遡ってみてほしい。
舞台は、“お客様がすべて動物”という不思議な百貨店。主人公の秋之さんは新人社員として働き始める。
ワライフクロウ夫妻を接待するフェレットや、久しぶりに会う父親への贈り物を探すウミベミンク、クレーマーのカリブモンクアザラシ、ガラス造形作家のマンモス……などなど、よく見知った動物もいれば、絶滅種の動物も登場。ちなみに、この作品内では絶滅種の動物を、V・I・A(ベリー・インポータント・アニマル)として手厚くもてなすように社員は教育されている。
可愛い笑顔と何事にも一生懸命な秋乃さんが、動物の悩みを解決するために奔走する姿は、なんだか見ていてほのぼのしてしまう……。
しかし、可愛いだけとあなどるなかれ。単なる癒し系漫画だと油断していると、神出鬼没なフロアマネージャーや俊敏すぎる社員の岩瀬の登場に、腰を抜かしてしまう。しっかりと「西村ツチカ」の毒っ気を感じることができるのも、また魅力だ。というか、動物よりも人間の方がコミカルに描かれているような気がするのは、気のせいだろうか。
なにはともあれ、松本大洋が帯に寄せるように、この作品が西村ツチカの「新境地」であることは確か。読んでいるとホッとして、なぜだかちょっと懐かしくなる、不思議な作品である。