2019.01.22
【日替わりレビュー:火曜日】『サマータイムレンダ』田中靖規
『サマータイムレンダ』
「あっぽけ!」
あっぽけ=「阿呆」の和歌山弁。方言をしゃべる女の子は可愛い。これは真理であります。そんな和歌山を舞台にしたサスペンス・ホラー『サマータイムレンダ』をご紹介。
主人公の網代慎平は、幼馴染である小舟潮の訃報を聞いて、故郷の和歌山市・日都ヶ島に帰郷してきた。潮の妹・小舟澪との再会も早々に、滞りなく行われる葬儀。死因は、溺れた少女を助けた時に、溺死したとのこと。
ところがその夜、澪は慎平に打ち明ける───「許せんやん…お姉ちゃんを…殺したやつ…ッ!!!」。
自分とそっくりの姿をした「影」を見たら、数日後に死ぬ。舞台となる島には「影の病」の謂れが残っています。最初は信じられなかった慎平でしたが、澪とそっくりの影が眼の前に現れて……! 何もできないまま殺される慎平。しかし意識が回復すると、なぜか前日に時間が巻き戻っているんです。
繰り返す時間の中で、慎平は「影」の謎を追い求めます。悲劇を食い止めようとトライ&エラーを繰り返す、「ループもの」と呼ばれるジャンル。
『サマータイムレンダ』は謎の提示と情報の開示、両方のバランスが絶妙に上手い。現在「少年ジャンプ+」最新話で南雲先生が負傷した銃創は、第一話で謎の負傷を負った南雲先生の答え合わせ。二周目のループで残されていた小早川家の争った痕跡の様子は、三周目の戦闘シーンで描かれています。
気になった引っ掛かりを、何周かループした先でスッキリさせる構造が気持ちいい。仕掛けが随所に散りばめられていて、伏線と伏線が繋がる快感が味わえます。
常に死の危険にさらされる事件の究明。それと並行して描写される田舎の空気感もイイ。シャワシャワと蝉の鳴き声が響き渡り、瀬戸内海の海沿いで暮らす、純朴な女の子と生活する空間。褐色ヒロインの澪が可愛すぎて、物語だけじゃなくキャラクターでも魅せてくれるんです。
交番のお巡りさん、船の船頭、幼馴染の父親。村の知り合いがいつの間にか、得体の知れない「影」にすり替わっていたら……。
小野不由美先生の小説『屍鬼』のように、因習に囲まれた村で、住人たちが「何か」に入れ替わる恐怖を緻密に描いているのが序盤の見どころ。物語が進んでいくにつれてアクションバトル、グロテスクなホラー要素も加わって、型破りの展開に翻弄されっぱなし。タイムリープの新たな名作が、現在進行系で誕生しています。ぜひ刮目してほしい。
©田中靖規/集英社