2019.01.27

【日替わりレビュー:日曜日】『マージナル・オペレーション前史 遙か凍土のカナン』橋本晴一, 芝村裕吏, しずまよしのり

『マージナル・オペレーション前史 遙か凍土のカナン』

芝村裕吏先生による小説『マージナル・オペレーション』。シリーズ累計100万部突破、キムラダイスケ先生の手によってコミカライズされたマンガでのシリーズも人気を博している作品ですが、そのストーリーへとも繋がり前史にあたるタイトルが小説『遙か凍土のカナン』となります。

そして今回ピックアップするのが、『遙か凍土のカナン』のコミカライズ版であり、Webコミック誌「サイコミ」で連載中の『マージナル・オペレーション前史 遙か凍土のカナン』。原作を読んでる読者の皆様にとっては、いまさら!かもしれないのでお恥ずかしい限りですが、このマンガから初めて物語に触れた身としては金髪ヒロイン・オレーナちゃんの天元突破する可愛さに衝撃を受けたため、先日1月23日に単行本が発売されたこの機会にご紹介させてください。

はじまりの舞台は、明治末期の日本。日露戦争屈指の激戦・黒溝台会戦で負傷した騎兵大尉・新田良造は、日本へ帰国し、騎兵の訓練監督として日々を過ごしていました。時代の移り変わりの中で軍における騎兵の存在価値が疑問視され、また戦時中日本に残していた愛する女にも逃げられ、と自分がこれまで信じてきたものが揺らぎ存在意義を自問自答する彼でしたが、ある日突然自宅に金髪碧眼の外国人美少女が現れます。

もうそれだけでファッ!? という感じですが、更にはその少女・オレーナは開口一番「お前をもらいに来た!」と、新田に対して婿になることを求めるのです。

青天の霹靂とはまさに。初っ端から急転直下の展開に新田も読者も驚きを隠せませんが、もちろんロシアの西の地、ウクライナ・コサックからはるばるやって来た彼女にとっては並々ならない覚悟あってのこと。

なにせ日本とコサックは、戦争の際にも戦った元敵国同士です。そんな敵国に彼女が乗り込んできたのは、世代をおうごとに血筋が弱まる自身の家の復興のためでした。公女オレーナは、元敵国の兵であるものの故国の騎兵達を打ち破った世界最強の騎兵の血を求めて、新田を訪ねてきた、というわけです。

流石に結婚自体はお断りする新田ですが、しかし彼女の必死の懇願もあり、陸軍を辞めて故郷へと送り返す旅に出ようを決めます。伴侶になることは出来ずとも、彼女の幸せを叶えるために、オレーナに身売りのような行為を止めさせるための立場や力を与えるべく最大限のサポートはしようと考えたのです。

そして、つかの間の自宅での彼女とのふれ合いの中で、戦争で忘れていた温もりを少しずつ思い出す新田。心晴れやかに、さてまずは辞職だとその旨を職場に伝えようとすると、上司(将軍)からは辞職届が受理されず、あげく今度は日本国内務省から「オレーナに協力し、極東の地に今後日本の盾ともなり得る東ウクライナ国を建設せよ」という任務が与えられてしまうのです。

これによって、秘密命令としての極東のウクライナ国家成立オレーナの身売り行為の回避、コインの表裏のように結びついてしまったミッションをクリアするべく、広大なユーラシア大陸を舞台に、新田の冒険が始まったのでした──、というのが土台の大筋となります。

本作の作画を担当するのは、橋本晴一先生。未読で恐縮ですが、以前同サイコミにて『行け!生存戦略』なる作品を描かれていたという(現在はサイトでの掲載は落ちています)、気鋭の作家です。本作では重なりあう人間ドラマを見事に切り取り、巧みに群像劇を描ききっておりお見事。

また冒頭にも書きましたが、なんといってもオレーナ嬢の魅力が爆発しています。初めての日本家屋での生活にわたわたする様子も、朴念仁でありながら心優しき新田に本当に惹かれていってしまう様子も、なんといじらしいことでしょうか。

最初の段階では、なんだこれご都合ラブコメか!?とか一瞬思いましたが、ページをめくるごとに、彼女の芯のある心の強さと、美しくも可憐な姿にどんどん引き込まれてしまいました。

1巻の段階ではまだ序盤も序盤。旅のはじまりにすぎませんので、ぜひこのタイミングにお手にとってみてくださいね。

試し読みはコチラ!

この記事を書いた人

八木 光平

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