2019.02.23
【日替わりレビュー:土曜日】『オッサン(36)がアイドルになる話』木野イチカ, もちだもちこ, 榊原瑞紀
『オッサン(36)がアイドルになる話』
説明しよう。『オッサン(36)がアイドルになる話』とは、オッサンがアイドルになる話である!(直球)
主人公・大崎弥勒(おおさきミロク)は36歳、独身で無職のネットジャンキー。190cmの高身長だが横幅もある肥満体で、手入れを怠ったボサボサ髪と無精ひげのせいもあり見栄えのしないオッサンだ。かつては健康食品会社で働いていたが、太ったやつではイメージに合わないからと理不尽なリストラを受けたショックで引きこもり、ニート状態でずるずる10年が経過したという身の上である。
そんな彼が、ネットの「踊ってみよう」動画に触発されて一念発起。スポーツジムのダンス授業へ通って身体をきたえ、劇的なシェイプアップをなしとげる。さらにカラオケで歌の練習を重ねた結果……本人も自覚しないうち、唄って踊れる超イケメン細マッチョおじさんが爆誕!
さらにカラオケボックスで撮影カメラの操作ミスから歌唱動画をネット上に公開し、世間の大注目を浴びてしまうのだった。
やがてモデルの代理をつとめるアルバイトをきっかけに、芸能プロデューサーの目にとまったミロクはなんとアイドルユニットの立ち上げに組み込まれる。そのユニットのメンバーというのが、同じジムに通って親しくしていたモデルタレント事務所社長・如月ヨイチ41歳と、元ホストで今は職無しの小野原シジュ40歳という顔ぶれ。
デビュー時点で平均年齢39歳のオッサンアイドル三人組は、どんな活躍をみせるのか……!?
という大筋で、思いきった年齢設定がキャッチーな作品だ。「アイドル物」「かっこいいオジさん物」でそれぞれニーズがあるところを大胆に合体させている。三十路越えの男性アイドルユニットというと、例えば『アイドルマスターSideM』の元教師ユニット「S.E.M.」のように、広い年齢幅で他に大勢のキャラクターがいるなかの一部分として登場する例は散見されるが、それ自体を作品全体のメインとする本作は貴重だろう。
現時点の最新話ではまだデビュー曲の歌詞を作る前後の段階なので、見どころとしては序盤で冴えない姿のミロクがどのように“変身”して、周囲の人々とどんな関係を築いてアイドル仕事にとりかかっていくかの下地作りに重心がかかっている。
ミロクが引きこもりから脱するきっかけが他人から精神論的な説教を受けたためなどではなく、本人が身体を動かしたくなったからというシンプルにして強力な理由付けは説得力があるし、また家族が決してミロクを追い込まず、かといって見捨てもしない距離のとりかたに優れた描写も好ましい。
スポーツジムでのヨイチさんとのほほえましい交流なども含めて、ミロクは痩せたら美形だとかいう外面のスペック以上に、とにかく人の縁(えん)に恵まれているところに主人公としての強みを見てとれる。そして、その恵まれた関係を素朴に受け止めるミロクのピュアないいやつ感がなお際立つという循環が心温まるのだ。
ところで説明が最後になったが、本作は主婦と生活社のWebコミックサイト「COMIC PASH!」連載作で、Web小説投稿サイト「小説家になろう」連載作の商業版を原作とするマンガ化作品である。
「なろう系」「なろう小説のコミカライズ」と言う時、ついつい男性向け異世界ハイファンタジーばかり思い浮かべがちなところへ「こういうのもあるんだよな」と視界を広くとるのにうってつけな一作となっている。
©木野イチカ, もちだもちこ, 榊原瑞紀/主婦と生活社