2019.03.08
【マンガレビュー】『君だけは死んでもごめん』あずさきな【「ストーカー女子 VS ストーカー男子」な社会倫理ギリギリラブコメディ!】
『君だけは死んでもごめん』
“毒をもって毒を制す”みたいな話、あるじゃないですか。
例えば『エイリアンVSプレデター』とか、『貞子VS伽椰子』とか、色々突き詰めていった結果、突き抜けちゃったみたいな。どちらもシリアスに作ってるはずなんですけれど、出来上がりはむしろ完全にコメディっていう。こういういびつな作品にたまらなく惹かれてしまう性分なんですが、シルフから、心くすぐられる設定の作品が登場してきました。それが、あずさきな先生の『君だけは死んでもごめん』。
端的に言うと、「ストーカー女子 VS ストーカー男子」という構図の、社会倫理ギリギリラブコメディ。
主人公の美都子は、ここ最近定番になってきた、ハイスペック残念系美少女。才色兼備で高嶺の花として崇められている彼女ですが、頭の中はクラスメイトの蒼一郎くんのことでいっぱい。おはようからおやすみまで(文字通り時間的な意味で)、動向を見守り(文字通り物理的な意味で)、好きな食べ物から身長体重、就寝時間に通学コースまで、ありとあらゆる彼のデータを把握することに喜びを見出す、控えめに言って完全なストーカーです。
そして、そんな彼女を付け回すのが、犬っぽいかわいい系男子の千代透馬。「振り向けば奴がいる」といった具合に、恐ろしいほどに美都子の動向を把握している彼は、GPSや盗聴器すらも平然と仕込み使いこなす、美都子をも上回る超絶ストーカー。そんなストーカー2人の、一方通行な重い重い愛情の行末は……?というラブコメディです。
メインキャラ2人どちらも筋金入りのストーカーなんですけれども、美都子の場合はターゲットに対して親しくなろうと距離を縮めていかず、眺めているだけ。またその美貌も相まって、ストーカーなんですが、どこか”許されている感”があるんですよね。そして透馬の方も、底抜けに明るくて爽やかなキャラクターなので、気持ち悪さが出ない。
これがブ男ブ女だったらコメディにならないんですけれども、とにかく行動はアウトなのに、雰囲気的にはポジティブなコメディになっちゃうんだからずるいですよねぇ。
物語の展開ですが、美都子のストーキングが行き過ぎて自らピンチに陥ったところに、千代が颯爽と現れ(というか付け回してるので常にそばにいるんですけれども)助けてくれるみたいなパターンが多いです。
通常であればそこで「トゥンク…」となったりするわけですが、いかんせん強ストーカーなので、美都子からしたら好きには至ることもなく、お礼の代わりにパンチをお見舞いみたいな。ただ千代にとってはパンチすらご褒美なんで、win-winな関係なんですよね。ほんとなんなんだこの関係。
通常のラブコメだとドキッとする出来事をきっかけに両思いに……みたいな展開が多いものの、本作の場合、相手はストーカーですからねぇ、仮に美都子が千代を好きになるとしても、「ストーキング力に屈した」みたいな絵面で、全然爽やかじゃなさそうなところが興味深いところ。
なんていうか恋愛ものというよりも、むしろストーキング力を競う、バトルものに近い印象すらあります。主人公が敵を倒したら、敵が仲間になるじゃないですか、そんな感じになりかねないな、と。何はともあれ非常に続きの気になる作品が登場してまいりました。とってもおすすめです。
©あずさきな/KADOKAWA