2019.03.09

【マンガレビュー】『星の王子さま』漫☆画太郎【稀代の名著を独自の解釈で漫画化!】

『星の王子さま』

1920~40年代にかけて、パイロットと作家という二足のわらじで秀でた地位を得たサン=テグジュペリ。その代表作のなかで特に知名度の高い著作といえば、そう、『星の王子さま』である。

1935年にリビアで墜落事故に見舞われた時のサン=テグジュペリ自身の心理をファンタジーに託して表現したとされる同作は、サハラ砂漠に不時着した飛行操縦士が星を渡って旅する年若い王子と出会い、生命・愛・友情など人生にまつわる問題に関して対話をくりひろげる“おとなのための寓話”。その奥深さから今も世界中で広く親しまれている。

そして、2017年9月。集英社「少年ジャンプ+」で、かの傑作をひとりのマンガ家が完全なる自己流へ溶かしこむ連載をはじめてマンガファンをのけぞらせた。それこそが、漫☆画太郎先生による『星の王子さま』だ。

砂漠におっこちた飛行機パイロットがいる。愛機を修理中に謎の少年があらわれ、「ヒツジの絵を描いて」と頼んでくる。描いてやるが何度もダメ出しをくらって描き直すはめになり、ふと単なる箱の絵を描いてやると王子は自分のヒツジが中に入っていると想像で補って満足する……。

うんうん、完全に『星の王子さま』だね。原作と同じく、目に映らないからこそ大切なものが心に見えるという示唆に富んだメルヒェンな状況だよね。

ほかにも王子の故郷のお星さまが「B612」だったり、キツネ・実業家・酒呑みなどやはり原作の登場人物を思わせるキャラクターがいるなど“分かってる”描写が続々と出て……くるのだが、しかし。文章で説明すればまっとうなリメイクと思わせてしまいそうだが、そこはほら、画太郎先生なので。

実際の絵ヅラは、野獣のごとき眼光をぎらつかせた全裸の子供が絵に不満を抱くたびキレちらかして斧をふりまわし、しまいには飛行操縦士の脚をズバッと切断するというウルトラバイオレンスなありさま。そこから操縦士は王子さまの小さな星を乗っ取った「ババア」と呼ばれる悪辣な植物怪人の打倒をめざす戦いに引きずりこまれ、エログロナンセンスな地獄の宇宙旅行が展開していくのだ。

このリメイク……いや翻案……いやパロディ……いや、なんとも言いようがない本作において、読者は「間違いなく『星の王子さま』でありながらいつもの漫☆画太郎作品でもある」という、脳が烈しく左右にゆれる体験を余儀なくされる。

以前「漫F画太郎」名義でドストエフスキーの『罪と罰』を漫画にした時もたいがいな蹂躙ぶりだったが、ここでも文芸史上の名作へクラッシュ&ビルドならぬクラッシュ&クラッシュな再構築がぶちかまされ、読み進めるうちいっそ爽快感すら生じてくることだろう。もしくはふつうに怒ってしまうかもしれないが、ごめんなさい責任はとれません。

ちょっと面白いのが、ここまでむちゃくちゃに荒らしておきながら、主人公の操縦士「パヤオ」が幼少期の家族関係で抱いたトラウマの掘り返しが進行上大きなポイントになるなど、“生きづらさを抱くおとなの内面をみつめる”という一点ではまわりまわって原典に忠実と言えるところ。だからさきほど言ったのとは逆向きに「いつもの漫☆画太郎作品だが間違いなく『星の王子さま』でもある」という見方もできてしまうのだ。

漫☆画太郎先生、まったくもって一筋縄ではいかないマンガ家である。

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miyamo

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