2019.04.13

指名手配された美しきご令嬢が、逃亡しながらご当地グルメを喰らい尽くす異色のコメディ!『とんずらごはん』 義元ゆういち【おすすめ漫画】

『とんずらごはん』

本日のピックアップは先日単行本第2巻が出たばかりのこちら、講談社「マガジンポケット」で連載配信中の『とんずらごはん』だ。

主人公・小波沙羅(こなみさら)、21歳。財界有数の名家に生まれ育った彼女は、いわゆる“ご令嬢”である。国会議員の息子と婚約が決まり、本人も一族もますます順風満帆だと羨望のまざざしを注がれる女性だった。

ところが突然、その華麗なる一族の家名に泥がぬられる。婚約相手の御曹司が何者かに刃物で刺されて死亡、凶器から沙羅の指紋が検出されたのだ。自分はやってない、絶対に潔白なのにどうして、と混乱した矢先。

「早く逃げろ! 警察は君を疑ってる」「いいから早く家を出るんだ!!」

かかってきた謎の電話にせかされ、沙羅は思わず駆け出す。結果、おとなしく捜査に協力するという常識的な対応を思いつく前に指名手配され、追い回される身となってしまった。

上等な服をゴミと泥にまみされせて町の裏通りを逃げまどう。国家権力におびえ、人目には顔向けできない。こんな生活がずっと続くのだろうか……みじめな気分に襲われた、そんな時。沙羅の目に、夜の路地をこうこうと照らす店の明かりが飛び込んでくる。

神岡タンタン。夜中まで行列ができる、ニュータンタン系の人気中華料理店である。空腹にかられた沙羅はふと入店し、看板メニューのタンタンメン大盛りを注文する。とき卵のやさしい食感、もちもちの太麺、麺に相性抜群の鳥ガラスープ、そこにほどよく溶けた唐辛子とにんにくのパンチ。今まで食べてきた高級料理とはジャンルの違う、野趣に満ちて心身がエネルギーで満ちる温かな食事。美味しい……!

沙羅は充実感につつまれ、再び夜の町へと逃走の足を向ける。しかし先ほどとは違う。生きる意志をのせて前を向いたたしかな足取りだ。

(沙羅は生きます どんなに恥を晒しても 沙羅は生きます だって…)

そう、だって世の中にはこんなに美味しいものがたくさんあると気づいたのだから!! ……というわけで、本作『とんずらごはん』は殺人の濡れ衣をきせられ指名手配中のお嬢さまが警察からの逃亡ぶらりグルメ旅とで、目的と手段がぐるぐるひっくり返るさまを描くサスペンスグルメ(?)マンガになっている。

なんといっても、逃亡者の物語において登場人物はまず衣・食・住をどう確保するかが最初の課題となる。そのなかで、短期間で生き死にに直結する食へフォーカスするのは納得感が大きい。沙羅の場合おいしいものを食べたい自分への言い訳も混じっているが、どちらにしても「ひとは食事で元気になる」という真理をとらえるのにこういうシチュエーション立てがあったか、と感じ入ることしきりだ。

よく、空腹だとか愛情だとかで「〇〇は料理の最高のスパイス」という言い回しがある。それは言い換えると、料理を作る人と食べる人との関係性や、食べる場所、周囲のにぎやかさ、体調、前後に起きた出来事など「状況がメンタルを通して味覚に作用する」ということだ。

本作のヒロインが、逃げ続けることでタメていく疲労、心労、いまにも捕まりそうだという緊張感……それらすべてが、おいしい食べ物にありつく豊かな時間空間で一気に解放されるカタルシス。そこにはまさに最高のスパイスが働いている。「逃亡生活+グルメ」とだけいうと奇抜にも思えるが、考えてみれば実はかなり必然的にマッチする組み合わせといえる。

ちなみに、このユニークな仕立てをものにした作者は『夢喰い探偵 ―宇都宮アイリの帰還―』義元ゆういち氏。デビュー読み切り時からずっとミステリ作品を専らにしているマンガ家さんである。だから本作はむしろミステリのほうを車体として、そこにグルメ物のエンジンを搭載したという形でとらえたほうが適っているだろう。

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miyamo

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