2019.05.04

「剣と魔法とスマホ」な世界で繰り広げられる、脱力ファンタジー日常コメディ!『邪剣さんはすぐブレる』飛田ニキイチ【おすすめ漫画】

『邪剣さんはすぐブレる』

本日は小学館「裏サンデー」他で連載中の『邪剣さんはすぐブレる』を紹介しよう。

作者の飛田ニキイチ先生は、緻密な描き込みにすぐれた美術力をシリアスからコメディまで使い分ける芸達者ぶりで注目されているマンガ家さん。モンスター狩りが盛んな世界で、家にこもるニートの自堕落と一念発起を描く『MONSTER×MONSTER』と、無頼のサムライ集団と異能のニンジャ軍団が激突する『しのびがたき』のインパクトがいまだ記憶に新しい。その飛田先生が高い画力をそのままギャグに全振りしたらどうなるか? その答えが本作である。

舞台は、勇者と魔王が戦うベタな「剣と魔法」の洋風ファンタジー世界……“だった”と過去形がつく世界。なぜかといえば、いきなり電子技術が発達して高度情報化社会に突入、ファンタジー世界の住人たち自身がネット上でファンタジーのお約束にツッコミを入れ始め、世界のノリが変わってしまったからだ。人間も異種族もSNSや自撮りや動画配信で忙しく、種族間で戦争なんかしてるヒマはない。

各勢力のトップはなんとかファンタジーっぽさをこの世に残すべく、映画やアミューズメント施設を作ってファンタジーの伝統を娯楽産業に組み込んだところ、これが大盛況。結果として平和的共存が実現することになった。

本作は、そんな「剣と魔法とスマホ」が象徴する世界の片隅でふたりの兄妹と一振りの剣を中心に起きる小さな大騒動の数々をつづった、脱力ファンタジー日常マンガである。

きっかけは、妹・モニカにあった。8歳にしてあふれんばかりの好奇心と冒険心をもつ少女はいつも12歳年上の兄・ルカスの手を焼かせている。その日もまた、モニカがこそこそしているので追いかけてみれば、何かを「飼って」いる様子。さてはまた動物を拾ったな、育てるお金の余裕もないのに……と叱ろうとしたところ、妹が見せたのは。

「ただの剣!! これなら文句ないでしょ!!」

たしかに剣だ。けれどただの剣じゃあない。刃の腹にはいくつもの鋭い眼玉がつき、無数の牙が生えている。鍔の両端は手腕のごとくうごめき、おまけに触手まで生えている。周囲の草木から生気を吸い取り、人間の肉体から魂を分離する技を備え、あげく山より大きく巨大化する力までもつ異様な……ああ、邪剣だこれー!!

やがてそいつは二股にわかれた刃を器用に動かして二足歩行まではじめ、言葉をしゃべってあいさつしてくるしまつ(しかも関西弁で)。性格は意外と気さくでいいやつなのだが、邪剣は邪剣だ。地を砕き空を割るヤバい武器をなんとか捨ててしまいたいルカスだが、モニカは“聖剣ジャスティスブレーバー”略してジャスブレと勝手に名付けて片時も離れず、どんどん仲良くなってしまう。

世界滅亡に関わるような存在をペットのような距離感で居候させる羽目になったルカス青年は、妹と邪剣が騒ぎを起こしては、ひとに撮影された動画がネットに上げられ世間を騒がせる状況に胃を痛めるのだった……。

面白いのは「剣と魔法とスマホ」の世界においてはファンタジー要素の極限にある邪剣のすごさが良い意味で地味に相対化されるところ。例えば序盤のある回で、襲ってきた敵と邪剣が“まともな”ファンタジーバトルを繰り広げるのだが、最後はひとりの人間キャラが割り込んでスマホで撮った動画をネタに脅迫して敵の心を折るというオチがつく。

強烈なビームで山を崩し生命を刈り取る邪剣はたしかにすごいが、情報を一瞬で拡散共有してさまざまな社会的インパクトをもたらすITは勝るとも劣らない。

幼い少女が邪剣とよりそい勝手気ままに力をふるうさまは、見ようによっては恐ろしい図ではある。それが喜劇たりうるのは、「剣と魔法」だけの冒険を志向するモニカや、彼女の行動から流れ弾をくらうルカスの姿を、「とスマホ」で変質した社会がやんわりしたクッションとなり笑える形に受け止めているからだ。

基本的には兄妹ふたりのささやかな生活のスケールを描いている作品だが、それを下支えしている舞台仕立てまで感覚を広げて味わってみると、より楽しいだろう。

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miyamo

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