2019.06.11

大河ドラマのように壮大な世界観を彩る、躍動感に満ちた馬や騎士のアクション!『アルスラーン戦記』田中芳樹, 荒川弘【おすすめ漫画】

『アルスラーン戦記』

騎馬の躍動、刀と槍、弓の軌跡『アルスラーン戦記』のアクションに酔う

田中芳樹先生の小説を原作に、荒川弘先生が作画を手掛ける漫画版『アルスラーン戦記』

田中先生の描く大河ドラマのように壮大な世界観に、荒川先生流の躍動感あふれる馬や騎士の動きが組み合わさった傑作です。原作を知っている人も、ファンタジーが苦手な人も、息をのむ戦いを追ううちに、物語に入り込んでいきます。

原作の小説は1986年に第1巻が刊行され、2017年の第16巻で完結しました。中世ペルシアを感じさせる世界を舞台に、仲間の裏切りによって異教徒に侵略された祖国を取り戻そうとする大国パルスの王子、アルスラーンの戦いを描きます。

とはいえ、アルスラーン自身は幼く、「頼りない」「弱々しい」ともいわれ、剣も苦手。しかし作品中で「戦士の中の戦士」といわれるダリューンふくめ、アルスラーンの人柄と心の広さにひかれて、文武ともに優れた部下が集まります。

父親との確執や、よりよい統治について悩みながらも成長していくアルスラーン自身の物語に、蛇王という人外の敵との戦い、様々な文化的な背景を持つ国同士の交渉・戦いなど、見どころが多い本作。その中でも漫画版ならではなのが、荒川先生流としかいえない独自の線が生み出す騎士と馬の動きです。

中世のような世界観なので、移動の基本は(たまに象が登場します)。人々は馬で街から街を移動し、戦場を駆け抜けます。荒川先生はこの馬の描き方がすごい。私自身は戦場の馬の実物を見たことがあるわけではないですが、荒川先生の絵をみて「きっとこんなふうに騎士とともに走り回っていたのだろうな」と思わされました。この馬の動きは、騎馬隊のように集団になると特に顕著で、それは第1話のエクバターナの戦いのシーンでわかります。

限られたコマを使う漫画という表現のなかで、こうした描き方がされるのを見る度に、いつもわくわくさせられます。絵のひとつひとつの描き方はもちろん、コマ割りやコマの形への工夫がキャラクターの表情とあわさって、作品を読み進めさせるスピードを生み出しています。こうした調和は、荒川先生が原作の世界をご本人の中で一度咀嚼され、自分のものとしてから表現されているからこそだと実感します.

こうした疾走感あふれる表現は、馬の動きだけでなく、戦士の戦いにも表れているのもポイント。重い剣はゆっくりと、細くすばやく動かせる剣は速く。優れた腕を持つ戦士の弓は文字通り形もなく敵に向かい、強い戦士の槍は目に留まらぬ速度で描かれる──シーンに応じた使い分けが、余計な説明なしに明確に戦いの勝敗を読者に想像させ、かつキャラクターの違いをクリアにしていきます

「ファンタジー」や「歴史もの」というと、登場人物の多さや物語の複雑さなど敬遠してしまいがちな人がいるかもしれません。しかし荒川先生版・アルスラーン戦記は、そうしたハードルを壊す勢いに満ちたアクションの表現で、読者を楽しませてくれます。

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