2019.06.08

“怨霊だけどどこまでもかわいいお嫁さん”がヒロインのいちゃいちゃ夫婦ラブコメ!『怨霊奥様』 若狭たけし【おすすめ漫画】

『怨霊奥様』

奥様の名前は麗美さん。旦那様の名前はさん。

ごく普通の2人はごく普通の恋をし、ごく普通の結婚をしました。でもただ一つ違っていたのは──奥様は、怨霊だったのです

と、思わず往年のドラマ『奥様は魔女』日本語版OPナレーションのパロディをせずにいられない逸品が本日のピックアップ。電子書籍ストア「Booklive!」独自の電子マンガレーベル「NINO」でエピソード単位の配信販売が続く『怨霊奥様』である。

現在ちょうど「comicポラリス」で複数の回が期間限定の特別掲載中なので、まずは試し読みとしてそちらをチェックしてみてほしい。

お料理上手で気立てがよく、黒髪ロングが艶やかで色白美人な結婚相手という、もはや前時代的なまでに“かわいいお嫁さん”をヒロインとしていちゃいちゃする夫婦ラブコメなのだが、そのお嫁さんの造形がなんとも強烈だ。

ズタボロの白いワンピースを身にまとい、目・鼻・口から大量の血をダラダラ垂れ流してはぎょろりと白目を剥き、テンションが高ぶればどす黒い怨念オーラが噴出して奇声を上げ、首やら手足やらがありえないレベルでねじれることもしばしば。

得意技は鏡から鏡へ伝って別の場所へ出現する超空間移動。未練があってこの世に居ついており……いやもう、例えではなくほんまもんの怨霊である。そんな彼女が愛する夫のそばに寄り添う姿は、客観的にはヤバいバケモンが人間に憑りつく構図だ。夫が忘れたお弁当を会社へ届けに行く家庭的行動も、人々に目撃されれば阿鼻叫喚なホラーの幕開けである。

「恋した相手・結婚した相手が〇〇(人外ファンタジー設定)だった」という趣向はいわば丼飯の丼の部分で、そこへどんな具を載せるかがクリエイターの腕のみせどころとなる。その点、恐いオバケを完全に恐い姿のまま夫婦いちゃラブのキュートさに放り込んだ作者の剛腕はただごとでない。

そう、麗美さんはあくまでも、どこまでも可愛いひとだ。他人から怖がられる外見や挙動不審の向こう側には常に夫婦生活を円満にしようとする健気な努力が光っている。そんな妻の特殊さに正面から向き合い、彼女がごくたまに見せるかけねなしに優しい笑顔を慈しむ夫の誠実さも好ましい。

自分たちは世の中の「ふつう」の「いい」夫婦とは条件や形が違うかもしれない。ある意味、社会的なハンディキャップを抱えた境遇だ。でも、何が当たり前で何が幸せかは当人たち次第……。そういうエッセンスをくみ取れば、本作はファンタジーを経由してむしろ現実のどんな夫婦にもあてはまる寓話たりえている

ところで、麗美さんのホラーっぷりを楽しむ上で参照できるのは、やはりここ20年以上に渡るジャパニーズホラー映画の文脈だろう。具体的には『女優霊』を先駆けとして『リング』『呪怨』のシリーズ展開で定着した黒ロン女性幽霊のデザインだ。面白いことに、大御所『リング』の貞子も長年にわたる豊富なメディア展開や宣伝活動、またファンの二次創作でいつしか萌えキャラ化・ゆるキャラ化される局面が生じており、“ホラーキャラのカワイイ変換”は飛び道具のようでいて意外と手堅いアプローチにもなっている。

『リング』シリーズに関係したマンガでいうと、1990年代にドラゴンジュニアで連載された後2012年に『貞子3D』公開に合わせて単行本化した『となりの貞子ちゃん2D』、映画最新作『貞子』に合わせた『貞子さんとさだこちゃん』がある。

考えてみれば「ホラーとコメディは紙一重」という道理があるのだから、さらにコメディがラブコメや微笑ましい可愛さに延長されるのも待ったなしだったのかもしれない。『怨霊奥様』第1話の冒頭、麗美さんがベッドで眠る夫を起こしに行く朝の風景が「夫婦のラブラブなシチュ」「幽霊が枕元に現れるホラーなシチュ」という二重のあるあるを同時に成立させているのは、作品の持ち味がとてもよく出たツカミになっている。

試し読みはコチラ!

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miyamo

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