2019.07.05
リアルな心と体の変化を感じるアラフォー社会人女子の日常を描いたヒューマンドラマ!『あした死ぬには、』雁須磨子【おすすめ漫画】
『あした死ぬには、』
雁須磨子先生による『あした死ぬには、』の第1巻が発売されました。めちゃめちゃ刺さりました。
アラフォー社会人女子の日常
物語の主人公、本奈多子は映画の宣伝会社に勤める42歳、独身。ハードワークをこなす日々を送っているが、ある晩突然、心臓の動悸が止まらず、身体が冷たく……。もしかして、私、更年期障害かもしれない!? 心も体も変化を感じる、40代。戸惑いながら、迷いながら、あしたを生きる……というお話。
40代。私にとっては未知の領域ですが、30代そこそこの今でも、健康診断での数値はみるみる悪くなっているし、なんだか疲れやすいし疲れが取れにくくなってきました。仕事はそれなりに責任のあるポジションにつきつつも、なんとなく先が見えてきた感じもあるし、だんだん頑固になってきたような気も。そういえば、なんだか涙腺も弱くなってきたような。
それが40代ともなれば、それらの変化……端的に言うと“老い”がもっとはっきりとした”事象”となって眼の前に立ちはだかり、ともすればその壁の向こうに”死”なんてものが透けて見えたりするのでしょう。いや、今から怖い。
退屈ゆえに刺さる
本作の主人公、本奈多子はそんな自分の変化に直面するアラフォー女子。バリバリ仕事はこなしているけれど、なんだか怒りっぽくなってきたし、やたら発汗するし、肩も上がらず疲れは取れないなど、「更年期障害」というカタチで老いを感じ始めています。
なんとかしなきゃと思いつつも、日々に忙殺されて変化はできず、思い立っては死を意識して身辺整理も始めたりもするのですが、果たしてこれで良いのかと悶々。戸惑いながらも、少しずつ老いのステップを踏んでいきます。
描かれるのは、会社で働くアラフォーOLの日々そのもの。使えない同僚に怒ったり、年下の同僚との会話で老いを感じたり、病院に行ってみたり、地元の友だちと東京で数年ぶりに会ってみたりと、なんてことない普通の日常風景が描かれます。そこにひとつとして”ドラマ”はありません。
本当にただあるがままに日常が切り取られている感じなんですよね。落とし込まれているエピソードの全てが、自分でも経験していそうなぐらいありふれた内容で、なんなら退屈ですらあります。
もちろん何かしら出来事は起こるんですよ、毎日違う日々は過ごしています。けれども代わり映えは無く、何か自身に変化をもたらす感じでもないこのちょっとした行き詰まり&息詰まり感がリアルでリアルで、否応なしに自分に覆いかぶさってくるのです。
で、「退屈」なんて形容したものの、その中で発される主人公をはじめとしたアラフォーの登場人物達のセリフが、リアルがゆえに恐ろしいぐらいにズバズバ刺さる。
「死ぬのも怖いが 生きるのも怖い」
「つまるところ 私の時代は終わったのだ」
こうして文字にしただけでは、伝わらないかもしれないのですが。物語に没入している中でこれが出てきたら「ああぁ~。」ってな感じで心が崩れ落ちるのですよ。
背中を押す物語
しかしずっと落ち込んでいるわけにもいきません。生きている以上、明日はやってくるし、仕事に行かなくちゃいけない。そんなこみ上げるやるせなさや悲しみに、ときに流され、ときに抗いながら生きる姿に、静かなる感動と共感を覚えます。
タイトルの通り、明日死ぬには、まず今日を生きないといけないわけで。一生懸命生きるヒロインが、今を生きなくてはいけない自分たちの気持を後押ししてくれる、そんな素敵な物語です。
これを10代が読んで面白いかと言われると正直微妙。作品の持つ物語性よりも、やはり読者の人生を糧に面白さが増す作品という印象で、30代、40代の人に是非ともおすすめしたい一作です。
©雁須磨子/太田出版