2019.09.07
クマ狩りに執着する猟師ガールの挑戦!『クマ撃ちの女』安島薮太【おすすめ漫画】
『クマ撃ちの女』
本作のナレーションを担う語り部・伊藤カズキはライターを生業とする青年だ。会社を辞めてフリーになっており、いまは金も仕事もろくにない。祖父の家に居候しながら、自分の立てた企画を本としてまとめるべく執筆に励む日々である。
その企画とは、北海道・旭川にいる一人の女性への密着取材。
名は小坂チアキという。年齢31歳。職業は、兼業の猟師。雪に覆われた山森へ足を運んでは、ライフルを携えて野生の獣と相対する日々を送っている。
彼女には、どうしても狩りたい獲物がいるらしい。それは……クマ! 北海道のエゾヒグマといえば日本最強生物の一角とされ、近づいて仕留めるのは当然ながら相当にリスクが高い。
「クマ撃ちって元々危ないんだけどさ アノ娘はいつ死んでもおかしくないよ」
関係者からそう言われてしまうほどクマ殺しに執着する狩りガールの狩猟現場に同行したライターは、北国の大自然のもと、現代日本にあって本物の“冒険”の目撃者となる……!
以上が、新潮社「くらげバンチ」で連載中のWebマンガ『クマ撃ちの女』のあらましだ。
銃や弾丸の管理、射撃場での練習、森の歩きかたや獲物の気配のとらえかた、撃った動物の吊るし解体、獣肉の調理……などなど細かい作業から豪快な楽しみまで、猟師さんのお仕事紹介としてのディテールをそつなく敷き詰めつつ、小坂チアキという主役の独特なキャラクターで読者を引っ張っていく内容になっている。
ポイントは、チアキがしきりにクマを撃ちたがるが、別に狩り慣れているわけではないところ。
第12話にいわく「二年前まで関東で鳥撃ちしかしてなかったペーペー」で、クマ退治の実績も一年前にほぼマグレで一匹倒しただけだという。タイトルにいうクマ撃ちの女は、正確にはまだクマを撃ちたい女でしかない。そのことを自覚してチアキ本人も焦れている。
マイペースなのに余裕がないという不思議なバランスの性格造形が、彼女にふりまわされる伊藤の目を通して描かれていく。
専門ジャンルをあつかった作品では、素人がプロに案内されてその道の奥深さを学ぶフォーマットが王道だ。本作もいちおうその型なのだが、案内するチアキがまだ技術も精神面も安定していないレベルなのでどうしても危なっかしい。新米が素人を連れまわすという構図が本作に独特の趣……というか緊張感をもたらしているわけだ。
その点でのハイライトとなるのは第8話前後、チアキがその年初めてヒグマを撃つことに成功するエピソードだ。
撃てる、というよりも「撃たされる」至近距離に追い詰められたチアキがクマとにらみあいながら思考をフル回転させ、伊藤をおとりに使ってスキを突くギリギリの選択を余儀なくされるくだりは手に汗にぎる緊迫感で必見だ(ちなみにその後、素人を危険にさらしたことで目上の人間からちゃんと叱りつけられます)。
セリフや会話の端々から察するに、どうやら誰かのかたき討ちとしてクマをたくさん狩り続けたいらしいチアキ。
目的には迷いなく執念を燃やし、それでいて自他の生死を分ける判断に焦りや落ち込みもする彼女が「クマ撃ちの女」としてどう熟達していくのか。今後の展開が楽しみな作品である。
©安島薮太/新潮社