2019.09.14
きらきら可愛い少女姿の戦士「魔法少年」になっちゃった小学生男子の、成長ファンタジー!『ボクらは魔法少年』福島鉄平【おすすめ漫画】
『ボクらは魔法少年』
本日紹介するのは、「となりのヤングジャンプ」にて月一配信中のこちら。
「週刊ヤングジャンプ」2018年13号から連載がはじまり、しばらく雑誌とWebで並行したのち今春から完全にWebへ移行した『ボクらは魔法少年』だ。
主人公・小田桐カイトは11歳の男の子。やんちゃ! わんぱく! ガキ大将! そんな形容がぴったりの小学生である。
タフでカッコいい男になることを目指し、悪さを見かければ上級生が相手でも立ち向かう。正義感あふれる勇敢な少年だ。
そんな彼がある日、隣のクラスへ転校してきたクールな美少年・海原マコトに声をかけられる。
マコトはいきなり手も触れずに物を吹っ飛ばしてみせ、自分は魔法の国から不思議なパワーを授かって街を守る仕事についたのだと驚きの秘密を明かした。そして、一人では力が足りないので仲間を作りたい、と言う。
「街の平和を守る正義の味方になってみない?」
「なる! なりたい!」
ヒーロー願望を燃やして即答したカイト。魔法のアイテムを渡され、意気揚々と初変身。その姿は……頭と胸元に大きなリボン、下はヒラヒラのスカート、背中には天使めいた羽がついたゆるふわコーデ。ハート型の飾りがついたステッキまで携えて、全体がきらきら桃色の可愛らしすぎる衣装だった!
魔法少女ならぬ“魔法少年”になったカイトは「ときめき☆ピンク」という名前までつけられ、ひらひらコスチュームで公衆の面前に出て人助けする羞恥プレイを強いられる。魔法少年を辞めるには一定の実績を積まないといけないため、最初はイヤイヤながら活動に身を投じていた……のだが。
ある時、変身した自分の姿を改めてしっかり視界に入れてビックリ。てっきり全然似合わない不格好になったと思い込んでいたが、オレ、すげーカワイイ!?
自覚した瞬間、あふれでる強力なエネルギー。そう、魔法少年とはカワイイ自分に堂々とした自信をもった状態でこそ本領を発揮する存在なのである。彼らが授かる魔法の源“オトメチック”は魔法の国で“大いなる誇り”を意味している。
かくして、魔法少年として少しずつ成長を始めるカイト。マコトが変身した「さざめき◆ブルー」を相棒に、きょうも街の人々の笑顔を守るのだ!
……というのが、本作のあらまし。
人々の日常生活に寄り添う古典的な魔法少女(or魔女っ子)の文脈から、『美少女戦士セーラームーン』やプリキュアなど変身戦闘ヒロイン分野と合流した新たな魔法少女の文脈、『魔法少女まどか☆マギカ』のような深夜アニメ方面の闇落ち設定の文脈まであらゆる“魔法少女”概念をとりこみつつ、そのすべてを“少年”という焦点に移すことでベタなパロディ臭さを脱しているのが特徴といえる。
しかも、男の子の強さ・カッコよさというマッチョに対して少女趣味のカワイイをぶつけて否定するのではなく、「自分のカワイイを自分で認め、誇りをもって行動する姿は強くてカッコイイ」という、剛柔をひとつに合わせた観点が好ましい。
さらに言うと、そういう切り口を示すにあたって、男の子「だけど」かわいく「てもいい」というような留保はつけていないのも本作の美点だ。女の子みたいでカワイイ男の子という回り道ではなく、どストレートに「男の子がカワイイ!」という確固たる信念が生む、いさぎよい格調がそこにはある。
福島鉄平先生といえば、心優しくあどけなさを残す少年少女が夫婦になるところから始まる時代劇マンガという、少年ジャンプ本誌では珍しい筋をみせた『サムライうさぎ』(2007~08)連載後、女装男娼少年の切々とした情況を描いた短編「アマリリス」(2014)で質的飛躍を遂げたマンガ家さんである。
そこからさらに男の子が自分のカワイイに直面して受け入れる(そして読者にも受け入れさせる!)プロセスを、“魔法少年”というファンタジーを介して分かりやすくおこない、テーマの深掘りとエンタメを両立させた成果として、本作がある。
そんなふうに作者の履歴を添えた読みかたをしてみても面白いだろう。
©福島鉄平/集英社