2019.11.23
『北斗の拳』のザコキャラ達にスポットをあてた、お仕事ギャグコメディ!『北斗の拳 拳王軍ザコたちの挽歌』武論尊, 原哲夫, 倉尾宏【おすすめ漫画】
『北斗の拳 拳王軍ザコたちの挽歌』
1980年代の格闘バトル少年マンガ界を席巻した歴史的有名作『北斗の拳』。
のちには直系の前時代譚『蒼天の拳』が描かれたほか、『天の覇王 北斗の拳ラオウ外伝』『銀の聖者 北斗の拳トキ外伝』『極悪ノ華 北斗の拳ジャギ外伝』といった北斗神拳の兄弟(ジャギもおるでよ!)それぞれ単独で主役につくスピンオフが続々作られ、さらにはギャグ方向へふりきった『北斗の拳イチゴ味』『DD北斗の拳』まで登場して多彩な広がりをみせてきた。
アニメ、ゲーム、大人向け遊技機への版権までふくめれば、もはや“『北斗の拳』市場”とでもいうべき様相である。
さて、今回紹介する『北斗の拳 拳王軍ザコたちの挽歌』もその一環でごく近年にあらわれた、ギャグ系列に属する作品だ。マンガ配信アプリ「マンガほっと」で2017年11月から現在も配信中、単行本は2巻まで刊行されている。
時はおなじみ199X年。核戦争の炎に包まれて地上も人心も荒れ果てたヒャッハーな時代。まともに働いて生活を立てる手段なんてろくにないご時勢に、ひとりの若者が幸運にも(?)とある仕事先の募集を見つけて飛びついた。
「住み込み三食付き! 誰でもできる簡単な作業です」
おお、なんという好条件! あとは職場の雰囲気がよければな〜、というところだったが、一緒に働く同僚と顔合わせしてびっくり。そこにいたのは仰々しい革ジャケットにトゲトゲした肩パッドをつけて、筋骨たくましすぎる肉体を誇る超個性的なヘアスタイルの男たち。
……ようこそ、拳王軍へ!
世紀末覇者・拳王の狂暴な配下たちと四六時中いっしょに行動し、村を襲ったりモノを盗んだり奪ったり壊したり。うん、やれば誰でもできる作業だね。募集はウソついてない。ウソではないんだが!
とツッコむ暇もそこそこに、ふと同僚のモヒカンを見ると様子がなんだかおかしい。顔がぐにゃぐにゃになって身体がはじけ飛び、ああっ死んだ! そう、なんといってもここは拳王軍。主人公ケンシロウにぼこぼこにされ、北斗神拳の技を受けて爆発四散するのがさだめのザコたちの集まりなのだ。
終末世界でもっとも気楽だが同時にもっとも過酷な“職場”についてしまった若者は、いつまで生き延びることができるのか!?
という具合に、終末世界でひとの命を粗末にする連中それ自体の命が、名もなき有象無象として粗末に散ってしまう皮肉を能天気な笑いに転換したワザありの一作となっている。同じギャグ番外編でいえば、『北斗の拳イチゴ味』が本編の主要な名前ありキャラクターたちを前面に出したのと、背中合わせの趣向といっていいだろう。
また、有名なエピソードやシチュエーションの合間に、ザコキャラ視点ではどういう光景が見えていたのか、何をしくじってケンシロウにやられてしまったのか……という舞台裏めいた楽しみもある(あの「デカいババア」の真摯な自己反省が見られる第42話は必見!)。
とりわけ面白いのが、北斗ワールドの荒廃世界=就職難の時代という切り口からモヒカン野郎どもの荒くれ軍団を、いわゆるお仕事コメディの舞台にすえた解釈力。
村人から水を食料を奪う時に何と言えばいいか、という問いに「ください…?」と口にすれば「拳王軍が恵んでもらうつもりか!? 『水と食料をよこせ〜〜〜!!』だろうが! リピートアフターミー!」とキツい指導が入るなど、新米の会社員と先輩社員そのものな構図と内容の無茶さの摩擦が楽しい。
体育会気質の職場だからと考えれば、まあそうだよな……と謎の納得が得られてしまうのだった。
©武論尊, 原哲夫, 倉尾宏/徳間書店