2019.12.28

役立つお掃除ノウハウ満載、ユニークな切り口のファンタジーコメディ!『魔物たちは片付けられない』高野裕也【おすすめ漫画】

『魔物たちは片付けられない』

本日は、「ガンガンONLINE」で連載中(アプリ配信先行)の『魔物たちは片付けられない』を紹介しよう。

ファンタジー世界の架空の生命体における大御所中の大御所、ドラゴン。超自然の権化ではあるが、基本的には動物の一種である以上、食べて寝て雨風をしのぐための棲みかを必要とするところは人間と変わらない。

そしてここに一匹、とある洞窟内の遺跡を寝ぐらとして生きるドラゴンがいた。名はイドル。近隣の人々に生贄を求め、恐れられる悪しき竜だ。

ある時、このドラゴンに命をささげるためにひとりの若い娘が志願して洞窟を訪ねてくる。名前はクリエラ。身も心も純真清廉なシスターである。食べる前に最期の祈りくらいは訊いてやろう……とドラゴンが話しかけたところ、シスター・クリエラはこんな一言を口にした。

「イドル様のお住まい… 汚れすぎです!!」

クリエラの視界いっぱいに広がる、ごちゃごちゃと物が散らかりゴミ溜めと化した洞窟内のありさま。生贄として食べられるのはかまわない。けれど、こんな汚部屋(おへや)で食い散らかされるのは我慢できない!

教会で掃除番をしていたシスターは筋金入りのきれい好きで、お掃除マニアなのだった。

そこからはドラゴンが、ずるずるとシスターのマイペースに巻き込まれていく。

シスターの指示でまとめた不用品を外へ出し、ドラゴン用に作った巨大なゾウキンで柱や床を拭き清め、壁に穴をあけて換気をして……。はっと気がつけばイドルの棲みかは光り輝かんばかりに清潔になっているではないか。自分の手できれいにした場所にあふれる、この清々しさは何だろう? 今まで破壊と暴力で心を満たしてきたドラゴンにとって初めての気持ちが沸く。

非力な小娘が強大なドラゴンにここまで深い影響をもたらすとは。「ソウジ」という行為、なんと得体のしれぬ魔術か!

まだまだ洞窟まわりのお掃除がしたりないシスターと、どうせなら最高にきれいな空間で彼女を美味しくいただこうとするドラゴン。両者の利害が一致して生贄はいったんおあずけとなり、奇妙な共同クリーンナップ生活が幕開けるのだった……。

という具合に、怪物と生贄の対峙という定番シチュエーションにお掃除のノウハウ講座をかみ合わせたユニークな切り口のファンタジーコメディとなっている。

掃除の段取りや道具の使い方・作り方などリアルに役立つ豆知識が毎回紹介されており、ファンタジーの最強生物とリアルの我々をこういう具体的な生活感で結びつけることが可能だったか! と膝ポンで感心させられる。

まず何といっても「ドラゴンが財宝や装備品を大量にため込んでいる洞窟」という古式ゆかしい情景を、片付けられない癖によって汚れたゴミ屋敷に見立てるアイディアの説得力が、本作第一の勝因(?)だろう。「ちらかっているのではない、一歩も動かず全てに手が届く黄金の配置なのだ!」というイドルの強弁にダメな親近感を抱かざるを得ない……!

また、戦う力のないちっぽけな人間が、知恵によって巨大な怪異をふりまわす図そのものは和洋を問わずおとぎ話に昔からあるわけで、題材の変化球が一周まわってむしろ王道を盛り立てる感触も楽しみどころといえる。

読むと思わず部屋の掃除がしたくなるファンタジー、という珍しい体験をしたければぜひチェックしていただきたい作品である。

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miyamo

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