2020.01.29
カラダからはじまり繊細に変化していく関係性を描いたガールズラブ!『一度だけでも、後悔してます。』宮原都【おすすめ漫画】
『一度だけでも、後悔してます。』
たった一回の契約セックスが、2人の女性の距離感を変えていく
無職になったので身体で家賃を払う話 (1/8) pic.twitter.com/xS4ySJ5d3N
— 宮原都▷◁1/27いちます1巻 (@aib_miyy) January 28, 2020
無職になり、家賃が払えなくなった24歳女性の小塚ちよ。三ヶ月滞納していた彼女の部屋にやってきたのは、19歳の大家の女の子。
お酒を飲んで慌てていた小塚は咄嗟に「なんでもします!!」と反応。その時大家が提示したのは「私とセックスしてください」という条件だった。
最初の一回、身体を重ねてしまう小塚。その後大家は小塚に、何かしらの奉仕をすれば家賃が減額されていく契約を交わし、小塚の部屋にルームシェアをすることに。とはいえセックス以外に何をすればよいものか。小塚は逆に大家に、職を失い傷心な境遇を慰められるわ、家事全般をこなしてもらうわで、奉仕されてばかり。
勢いの身体の重なりから始まる生活を描いた、2人の女の子の同居物語。セックスしたのは最初の一回だけ。一巻後半になると、実際どういう流れだったのかが判明。大家は無理強いを一切していないのがわかりはじめる。
大家の小塚への恋心が、この一回のセックスと同居生活でどんどん苦しくなっていく様子が切ない。契約的な形でセックスが成立したことになっているので、プラトニックな恋愛関係になりづらくなってしまった状況ができてしまった。望んでできた環境とはとても言えない。
一方で小塚も、大家の優しさを知れば知るほど、情が湧いてくる。奉仕は契約だけど、そうではなく心からなにかしてあげたいと感じ始める。一緒に住んでいるのに、お互い大切に気づかい合い始めているのに、気持はうまく噛み合わない。歪な関係の歯がゆさにハラハラしてしまう。
部屋でのシーンが多く、基本2人の心理と距離感が中心に描かれている。しかし外に出て第三者に見られた時、関係は少々ややこしくなる。
大家のクラスメイトは、小塚と一緒にいる彼女を見た時、悪気はなく「高校のとき女の子と付き合ってたよね」と話す。
「私そういうの偏見ないし、クラスのみんなも知ってたし!」
善意からの発言だが、それを聞いて小塚は激しい怒りにかられる。誰が好きかを他人がジャッジする必要なんてないし、その発言の時点で「私とあなたは違う」と線引しているからだ。
小塚は序盤で、はっきりと男性が恋愛対象だと述べている。大家は恋愛対象が女性なのも明かしているし、小塚のことを「ノンケ」と表現したこともある。ただしお互い恋愛や性に関してどうこう言ったことは全くなく、一対一の人間として接している。
物語は同性愛・異性愛の感覚の違いに繊細に切り込んで、「好き」の意味を問う。小塚が契約どおり自分から性的に奉仕しようとした時、悩んでできなかったこともある。それをも大家はちゃんと受け止めている。
これも「好き」と「性」の一つの形で、ジャッジするものではない。性的行為ができるかできないか、男性に惹かれるか女性に惹かれるか。案外境界線は曖昧だ。
タイトルにある「後悔」の意味が徐々に変化していく機微は是非読んでみて欲しい。マイナスに使われる言葉ではあるが、これからプラスに進むための意味合いもあるはずだ。
©宮原都/KADOKAWA