2020.02.01

ポストアポカリプス世界で理知的・学術的な視点を持って戦う、緊迫のサバイバル!『ほぼほぼほろびまして』吉沢緑時【おすすめ漫画】

『ほぼほぼほろびまして』

本日は「くらげバンチ」で配信中のWebマンガ『ほぼほぼほろびまして』という作品をご紹介。

何らかの感染がパンデミックを起こして多くの人々が狂暴な異形と化し、文明社会が崩壊。

生き残った者は荒れ果てた街の片隅に息をひそめ、ときには武器を手にとり異形と戦い、けっきょく命を落とすか感染してしまう悲惨な日々を送っている。もはや人類という種としては“ほぼほぼ”滅んでしまった世界で、それでも残りわずかな1人1人が必死に生きあがく、そこに意味はあるのか……。

という大きな背景のもと、安全で永住可能な島への渡航を目指す父親と幼い娘の動向を軸に、2人と合流する人物をからめて緊迫のサバイバルを描く内容だ。

全体的になんともクールな雰囲気をたたえる作品なのだが、その柱として注目できるのが主要人物の片割れである父親キャラ「パパ様」だろう。

彼は感染者たちに対してつねに理知的・学術的な視点をとる。感染者はただ人にむらがって襲うだけでなく、いくつもある巣のどれかに属して階級や分業で構造化された身分をもっており、別の巣の感染者となわばり争いをするなど複雑な本能を備えているらしい。

パパ様はこれをいわゆる“真社会性”の生物……具体的にはアリにきわめて近い生態だと見抜き、その観察から選んだ行動でピンチを脱することもあるのだ。

そうやって観察と考察を加えて「習性をもつ生き物としてのゾンビ」の様子をクリアに言語化し続ける展開は、マンガの感触にゾワッとした生理的な恐さやアクションでの興奮のみならず、じっくり腰をすえた生物学的好奇心の対象としてのゾンビを読者に提供する。

そう、この趣はいわば1990年代往年のバラエティ番組「タモリのボキャブラ天国」でいう“インパク知”みたいなものですね(例えが古い!)。

もちろん古今東西、広い意味でのゾンビものには作品ごとにそれなりのゾンビ生態が設定されていて分析・対処するフェーズを挟むのが定番ではある。しかし本作の場合、ただ単にストーリー進行のための副次的な段取りに留めず、むしろそこを主眼とさえ言っていいような仕立てにしてあるのが特色だ。

マクロな状況ではもはや絶望的に詰んでしまった人類が個々人で人間らしくできることはどれだけあるのか、というポストアポカリプス世界の薄暗い道を、知性の灯火で照らすパパ様はスーパーパワーのひとつも持たずとも一種のヒーローに見えてくる。

以下、余談。

その分析フェーズで映画ファンをくすぐる小ネタがあった。第8話、感染者がそもそも何に感染しているのか仮説を立てるさい、登場人物のひとりがゾンビの種類を死者の甦りと寄生生物の憑りつきに二大別して「王道のロメロ系」「ヒドゥン系」と形容している。

ロメロ監督といえば『ゾンビ』『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』などを手がけた大御所中の大御所で説明不要だが、一方の『ヒドゥン』(1987)は宇宙から来訪した寄生虫タイプのエイリアン犯罪者が人間の身体を乗っ取って暗躍するのを、同じく人間に憑依するタイプの宇宙刑事が追いかけてきて地球で対決するという、SFスリラー映画である。

かつて「日曜洋画劇場」でテレビ放映されたのを見て記憶に残っている四十路以上のかたは結構いるだろう。

ゾンビジャンルのなかで寄生感染系のタイトルを他に挙げることもできそうなところを、あえてSF色の強い『ヒドゥン』を引っ張ってきたのが通好みな引用だ。

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miyamo

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