『きみのすきなひと』

こう森先生による、『きみのすきなひと』の第１巻が発売されました。

甘くてフワフワの恋愛ものにあらず

ピンキーな表紙に、イケメンに抱きかかえられる女子、そんでもってタイトルは『きみのすきなひと』ですから、そりゃあフワッフワの恋愛100％な内容を想像するじゃないですか。

でも読んでみてびっくり、全然違いました。なんなら恋愛漫画じゃなくてお仕事漫画なんじゃないかって感じるぐらいに、主人公が仕事に懸けてるんですよ。思わず連想したのは、数多ある社会人の甘い恋愛漫画ではなく、『働きマン』でした。

こんなあらすじ

成葉樹は、人気ファッション誌で働く編集者。恋人はいるけれど、樹の仕事の忙しさですれ違い気味。そんなある日、恋人の浮気を目撃し落ち込む樹の前に、美しい青年・藤が現れる。

優しく慰めてくれた彼は、「また会えますよ、必ず」と言い残し、翌日、編集部でまさかの再会!! しかも藤は、樹に気があるそぶりをみせて……というストーリー。

仕事命なパワフルヒロイン

この主人公の樹がとにかくすごいんですよ。押しも押されぬ人気ファッション誌「Joie」編集部で、バイトから正社員に登用された叩き上げの編集部員で、26歳。

とにもかくにも仕事優先で、徹夜なんて当たり前。大学時代から付き合っている彼と会うのも、仕事終わりに21時からとかザラ。いざ会っても、ノートPCでメールチェックをしたりするという、完璧仕事人間。

もちろん彼のことは大切ですが、とにかく仕事が好きなので、優先順位的にどうしても仕事が勝ってしまうという状態です。そんなことをしているから、彼にも愛想をつかされるわけで、彼の浮気もある種必然と言えるかもしれません。

ヒロイン全肯定なイケメン後輩

そんなところに、年下のイケメン君・藤が編集部にバイトとしてやってきて、何やら樹に好意を抱いているような雰囲気を醸し出してくるではありませんか。辛いときに慰めてくれるし、何気なくフォローしてくれるし、仕事でも積極的に手伝ってくれるし、なんというか特別扱い感がすごい。

コミュニケーション能力も高くて仕事もそつなくこなし、割とハイスペックであることをうかがわせるのですが、ふとした時に顔を赤らめたりと、年下っぽいかわいらしさを覗かせる一面も。その“隙”が、なんというか、あざといんですよ。

単なる恋愛ものではない

一方で、藤がバイトとしてこの編集部にやってきたこと、またどうしてこんなにも樹に対してアプローチをかけるのか、その両方で裏がある描写となっており、見えている部分だけで話が動いていくような、簡単な物語ではないことを匂わせています。

特にバイトとしてやってきた理由については、敏腕ながらもその冷徹ぶりで恐れられる編集長が鍵を握っており、それが物語の一つの軸となっていきます。ゆえに、物語も編集部を中心に動くため、おのずと仕事の描写が多くなるんですよね。なので、恋愛ものというよりも仕事ものっぽさとしての印象が強くなるのかもしれません。

そしてそんな様々な疑惑思惑が渦巻く中で、主人公の樹だけはとにかく真っ直ぐに全力で仕事に恋に打ち込むので、彼女の存在がより際立つんですよ。

やっぱり仕事をしっかりして、その上で恋愛する作品が私は好きです。久々にセンサーにビビッと来る新作が登場したな、という感じです。まだ何も始まっちゃいないといえばそうなのですが、今後への期待も込めつつ、強くオススメしておきたいと思います。

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©こう森/集英社