2018.10.27
【日替わりレビュー:土曜日】『ほわころくらぶ』えちがわのりゆき
『ほわころくらぶ』
本日ご紹介するのは、コミックNewtypeで2017年夏から連載が続く4コママンガ『ほわころくらぶ』だ。
イラストレーター・えちがわのりゆき先生が描く愛らしい動物キャラクターたちがSNSで話題となり、ファッション誌で取り上げられて注目度が上昇。ぬいぐるみ、雑貨、アパレルなどグッズを広く展開して物理的にもファンに親しまれている。
「ほわほわ市ころころ町」という名前からしてほほえましい町に、真っ白い毛がほわほわしてころころ丸っこい飼い犬「ほわころちゃん」が気ままにくらしている。ドーナツの穴に手をつっこんだりフランスパンを抱き枕にしてはご主人にしかられてしまうイタズラっ子で、のん気だけどちょっぴりさびしがりやでもある。
そんなほわころちゃんが、ゆかいな仲間たちに巡り合っていく。
まず、雪の降る日に訪ねてきた、ずんぐりむっくりなアザラシの「むくちゃん」こと、むくころちゃん。ほわころちゃんがやらかすイタズラの真似をしていっしょに叱られる姿があどけなく、ほわころちゃんの身体をシャリに見立てて上に乗っかり“お寿司の気持ちになる”ごっこを楽しむなど、ひとなつっこい赤ちゃんアザラシだ。
それに続いてあらわれたのが、どこからか転がってきた卵からかえったヒヨコの「ぼーちゃん」。ほわころちゃんお気に入りのテニスボールによく似た姿だから、ボールの「ぼーちゃん」だ。
さらに、北の海のまりもでオシャレな「まりちゃん」と無口なペンギン「ペンちゃん」、コロッケ屋さんに住む食いしん坊な柴犬「しばころちゃん」、リンゴの木の下で暮らすのんびり屋のチャウチャウ「チャウちゃん」……。
あたかも『ジョジョの奇妙な冒険』でスタンド使いがスタンド使いと惹かれ合うごとく、ほわほわ・ころころの動物たちが種を越えた同類と出会い、遊びともだちの一団となったのが“ほわころくらぶ”というわけだ。
野原を思うさま駆け回り、面白そうなもの・美味しそうなものがあれば確かめに行き、「~の会」と催しを開けば特に何するでもなくごろごろ。全力でゆるーい毎日を謳歌するほわころちゃんたち。彼らの姿を見るうち、読者もつられて力が抜けていく……それは逆に言えば、どれだけふだん無意識に力んでいたのかを自覚させられるということでもある。
そういう、いい意味での弛緩効果は、やはり本作のビジュアルの賜物だろう。淡白かつ柔らかい描線で、キャラクターの主線が適度にとびとびになっているためふわーっと気の抜ける感触を生んでいる。
また、1ページあたり大きく2コマ、すなわち2ページ使って4コママンガ一本というぜいたくな構成単位が、絵本のようにじっくりゆっくり咀嚼しながら読み進めるスタイルを自然と誘導しており、読み手の気持ちがほわころちゃんたちの生きる時間のテンポに添うよう調整してくれている。
日本のエンタメ重視マンガは、情報密度の高い小コマ大ゴマを敷き詰めて次へ次へとスピーディーにページのめくりを求める形で興奮を高める、速読的アプローチにすぐれた進化が目立ちやすいが、『ふわころくらぶ』の場合はそれと別種類の、というかほとんど反対向きの、“遅読”をした時に最大のここちよさが得られるアプローチの作品もあることを教えてくれる。
それは、何かとせわしないご時勢にいっぺん味わっておいて損はない趣だ。
©えちがわのりゆき/KADOKAWA・角川書店