2020.02.15
癒し成分ゼロな煽り屋ヒロインが繰り広げる、コント仕立てのファンタジーコメディ!『このヒーラー、めんどくさい』丹念に発酵【おすすめ漫画】
『このヒーラー、めんどくさい』
ひとの職業。それは他人にとって「そのひとが、肩書きどおりに勤めを果たしている」「その分野で必要に応じて能力を発揮する(してくれる)」ことを自然な前提として含むものである。
営業畑のサラリーマンなら営業をしているだろう。お医者さんなら医療の場に立つだろう。本屋さんなら本を売るだろう。これはファンタジー世界のジョブやクラスもしかり。戦士なら強靭なパワーで剣や斧をふるって戦うし、魔術師なら魔法でさまざまな現象を引き起こす。
しかし、もしも肩書きどおりの働きを必要もなく出し惜しみして、最低限の働きにさえ異様にうっとうしい段取りを挟んでくるやつがいたら。あまつさえそいつに生死の鍵をにぎられてしまったら……。いやあ、困るよね。
で、そんな困った状況を巻き起こすのが本作『このヒーラー、めんどくさい』の主人公兼ヒロイン、ダークエルフの神官・カーラというわけだ。
この娘、ケガを癒す聖職者“ヒーラー”なのだが、酷いおちょくり癖があって本当にめんどくさい。
強敵と戦闘中の甲冑剣士・アルヴィンとの遭遇で回復を頼まれたさいに口から出た言葉が、
「人に助けを求めるなら 跪いて額と両手を大地につけるべきではないでしょうか!」(真剣な顔)
これである。あまりの言いぐさに文句を返せば、
「魔獣に負けそうだからって私に八つ当たりですか? 自分の弱さを受け入れてください…」(被害者顔)
などなど、煽る煽る。
その後ある迷惑な理由でパーティーメンバーになってからも、こいつ回復の術よりも煽りスキルのほうが高レベルなんじゃないかと思わせる言動が目白押し。悪気がないのが逆にひどい、ナチュラルにコケにした態度でアルヴィンをふりまわし、冒険の日々をひっかきまわしていくのだった……。
という感じで、ヒーラーなのに色んな意味で癒し成分ゼロな煽り屋ヒロインの言動が愉快な、コント仕立てのファンタジーコメディになっている。
個人的に吹いたのは第10話、ダンジョンのボスキャラが改心の様子を見せるくだり。罪悪感にうなだれて震える魔獣を前にカーラはキラキラしたエフェクトを画面に背負い、「大事なのはその罪をどう償うか…」と珍しくいい説教をはじめるも、
流れるように「どう…償うか…(スッ)」と指で金銭を要求するジェスチャーを混ぜてくる。ヒールはしないが強請りはする。聖職者とはいったい……。
巷ではマンガその他のキャラ造形で“ウザかわ”の概念が一つのジャンルを作っているが、カーラの場合は「ウザいけど可愛い」「ウザいからこそ可愛い」というのを突き抜け、もはや「ウザすぎて可愛いとでも思わないとやってられない」領域に達している。
公式の配信ページのキービジュアルでカーラが言う「回復魔法をかけてくれ? 私、命令されるとやる気を無くすタイプなんですよね…」というセリフがあまりにもこのキャラのエッセンスをよく抽出しており、本編を読んでから改めて見ると二度笑えてくる。
なお本作はニコニコ静画とcomicwalkerにて配信中で、2月21日にめでたく単行本第1巻が発売予定。まずはWebで序盤をチェックしてカーラというキャラの強烈な味わいに洗礼を受けてみてほしい。
©丹念に発酵/KADOKAWA