2020.03.07
おしゃれで可愛い不良ギャルは、実はゾンビ!?ほっこり学園コメディ!『恋屍川さんは肉食系』矢寺圭太【おすすめ漫画】
『恋屍川さんは肉食系』
本日は、新潮社「くらげバンチ」で配信中、2月に初単行本が出たばかりの『恋屍川さんは肉食系』をピックアップしよう。
とある高校に転校してきた女子生徒・恋屍川(こいしかわ)あかね。
ガンガンに黒く焼いた肌、色あせた髪、目つきのすわったツラ構え……気合いの入った不良ギャルがやってきた!? とクラスメイトがざわつくなか、彼女は必死な思いを抱えていた。
バレないようにしないと……自分が、ゾンビだということを!
そう、かつて住んでいた町がゾンビのパンデミックで消えた恋屍川さんは、自らもゾンビと化してしまった身なのである。しかし、人間のふりをして新しい学校で生活するのは簡単ではない。
口からは自然と「あー」やら「うー」やらうなり声が漏れるし、ひとを見れば美味しいごちそうが並んでいるように見えてよだれがダラダラあふれるし、動きが鈍ってるので走れないし……。怪しまれそうなウィークポイント満載である。
そんなことが重なって、いつか秘密が明るみに出ればどうなるか。
「友だちできないよ……!!」
それかー。それだけでは済まなさそうだが……いやしかし、10代の多感な少女にとってはたしかにそれこそが重大事であるだろう。
そんな恋屍川さんには、とりわけこの子には絶対嫌われたくないという相手ができる。隣の席のいかにも純朴そうなおっとりタイプの西村千佳(にしむらちか)ちゃんだ。
見た目の恐い恋屍川さんをそれでもかっこいいと思って親切にしてくれる、とてもいい子である。柔らかい雰囲気をまとい、柔らかそうな肉付きにいい匂いがして、思わずかぶりつきたくなるほど食欲をそそられ……って、あかーーーん!
というわけで、千佳ちゃんの親友になりたい一心で理性を保ち、内なるゾンビの肉食衝動と戦う恋屍川さんの綱渡りめいた学校生活が続いていくのだった。
同級生たちからは様子のおかしさを「きっと夜遊びして寝不足なんだ」と誤解されたり、授業中に千佳ちゃん食べたさが極まって思わず教室の外へ脱出するのをサボりと思われたり、不良ギャルとして恐がられる評判がつのっていく彼女の姿は「かわいい」と「かわいそう」が混じった独特な感覚を呼び起こしてくる。
ギャルとそうでない子のギャップの間に「ゾンビだし」という特殊な理由を挟むことでコミカルかつファンタジックな読み味を設ける本作だが、その底に敷かれた趣は「同世代なのに感性や住む世界が違いすぎて仲良くできるかどうか分からない」という若々しい不安だったり、またそれに対してそばにいる者が「分からないけど(だからこそ)もっと知りたい」と思ってくれる状況だったりで、距離感が絶妙に普遍的でもある青春譚なのだ。
ちなみに、個人的に印象的だったのが第13話冒頭2ページ目。お泊り会で恋屍川さんと千佳ちゃんがベッドに入っている場面を見てほしい。
死んで起きている少女と、生きて眠っている少女とが背中合わせに寝床を共有する構図……「そもそも ゾンビ寝ないし!」のセリフで可笑しみを出しているが、ゾンビをあつかう作品のエッセンスがつまった非常にいい一ページにもなっている。
©矢寺圭太/新潮社