『「羨望 Qualia-Envy-」「嫉妬 Qualia-Jealousy-」』

女性同士の間に生まれる羨望と嫉妬は背中合わせ

百合アンソロジーの『Qualia（クオリア）』は、今回２冊で一対なのであわせて紹介したい。

「羨望 Envy」と「嫉妬 Jealousy」。表紙のバレリーナの対比がわかりやすい。２つは全く別に見えるけれども、実際は視点を変えた時背中合わせのようなものでもある。

女の子同士の憧れと嫉妬。文字にすると前者が良いもので、後者がどす黒いものに見えるが、作家陣は単純にそう捉えていない。物語とシチュエーションの幅の広さが魅力のアンソロジー２冊だ。

「羨望」収録の海島千本先生による「My kitten」では、小さなお嬢様ローズと使用人のアリサの日々が描かれている。ローズはやんちゃ盛りで、花のようにきれい。

アリサはそんな彼女に対し、表では厳しくしつけながらも、かわいらしさに夢中。愛するローズお嬢様に、好きなだけ甘えることはできないものか…と夜な夜な思いを侍らせる。

「嫉妬」収録の空倉シキジ先生による「NIGHT QUEEN」では、キャバレーの歌姫アリアが登場。ステージで高い評価を得ている彼女は、志半ばで消えた伝説の歌姫エラの後継者、とも呼ばれていた。

アリアをプロデュースしているのはゾーラという女性。彼女はアリアを「エラ」として育てるべく、完璧に演じさせるようレッスンをし続ける。

基本的に２つのアンソロジーに収められている作品はバラバラなのだが、一本だけ、目玉焼き先生の「幸せな夜（「羨望」収録）」「あの姿を追い求めて（「嫉妬」収録）」は、一つの物語を別の角度で見た作品になっている。

メインで登場するのは、日本の良家のお嬢様と、その侍女。お嬢様に忠実に、真面目に仕え続けていた侍女。ある日侍女がついお嬢様のしまっておいた着物に手を通し、でき心で着てしまった。

それを見たお嬢様は侍女に「他の着物を着させてあげるから 今夜私の部屋へいらっしゃい 他のみんなには内緒よ」とこっそり耳打ちする。

「幸せな夜」は侍女目線で描かれている。お嬢様に強く憧れている侍女は、お近づきになれるなんて思っていないし、遠くで見守っていられればいいと考えるほど謙虚。だから突然のお嬢様の誘いとその後の展開に、理解が追いつかない。

「あの姿を追い求めて」でのお嬢様目線の描写。彼女は侍女に、とある姿を重ねていた。彼女はそこに激しく嫉妬し、彼女に対しての渇望を感じていたのだ。もちろん侍女はそんなことは知らない。

２つの作品あわせてお互いの答え合わせになっているユニークな構造。できれば両方同時に読んでみてほしい。

２冊に収録された物語群が比較されることで、線引の難しい「羨望」と「嫉妬」の物語が、それぞれどのように面白いのか、魅力を引き立てあう仕組みになっている。かなり挑戦的な刊行方法ではあるが、作家陣の百合漫画への熱い思いを浮き彫りにする、企画と編集に強い意思が感じられるアンソロジーになっている。

可能であれば「対になる百合アンソロジー」の形式は是非続けてほしい。２冊同時刊行スタイルだからこそ表現できる、多角的で繊細な百合漫画があるはずだ。

©ジーオーティー