2020.04.11

女子2人組が「買い食い」を通して交流していく、まったり日常作品!『東京黄昏買い食い部』 鈴木小波【おすすめ漫画】

『東京黄昏買い食い部』

黄昏。それは太陽が西に落ちてまだ夕焼けの赤が空ににじむ、わずかな頃合い。一日の昼と夜の切れ目ない玄妙な狭間である。

その束の間を、ふたりの女子高生が歩いていく。背が低く長髪で言動は元気な少女・二葉葵(ふたばあおい)と、それより頭ふたつも長身でショートヘアのやや内向的な少女・有馬巴(ありまともえ)。

対照的な彼女たちは学校非公認の部活を作って活動中の、部長と副部長である(部員はこの二名のみ)。といっても、なにかアクティブな運動競技や文化活動に精魂をかたむけるわけではない。

活動内容は、こうだ。まず毎回コンセプトをひとつ決める。そして、道すがらそれに沿った食べ物をどこかのお店で見つけて購入する……例えばお題を「ジャンボ」と決めたら、大きなメロンパンを買い、手にもって食べ歩く。以上である。

・500円ワンコイン内でおさめるべし
・通学路内で探すべし
・放課後16〜19時の3時間内とする

という三つのルールのもと、まあつまりは買い食いを楽しめばいいのである。そんな(自称)部活を少女たちはそのまんま「買い食い部」と呼んでいる。

人気作『ホクサイと飯さえあれば』でごはんを“作る”楽しさをあらわした鈴木小波先生が本作で描くのは、いわば食べ物を“巡る”楽しさ。食べ歩きの“歩き”という行為面に重心をかけている。

必ずしも食べ物を口にする場面にかかりきりではない。買い食いをする最中やその前後に起こるさまざまな出来事と会話、街の情景をトータルで読者の目にじっくりと沁み込ませてくる。

食べ物はメインの題材というより、景色に溶け込んで色を与える具材のようなものだ。

その景色がまた情感たっぷりで、いい。タイトルにある「黄昏」の一語は、ただ舞台となる時間帯のことだけを指すのではない。本作の中には、まこと様々な意味の「黄昏」が詰め込まれている。

学校と家のどちらでもない、放課後という独特な時間・空間。正式な部活ではなく、しかし完全に無目的な帰宅部でもない、非公認部活というふわりとした自主性。昼ごはんでも晩ごはんでもない、文字通りの間食。大都会・東京のなかにあってミクロな地域の個性をたたえる商店街その他スポットの、中間的な規模感……。

それらすべてがタイトルの「黄昏」に集約され、実際に描かれる黄昏の街景色によって読者は一言で簡単には処理できない心持ちをかきたてられることになるのだ。

もっといえば、本作は構成レベルからも「黄昏」を体現した内容になっている。単行本一冊に12編あるエピソードは月刻みの歳時記で、高校生偏が9話と、ふたりが20代になって漫画家と担当編集としてつるみ続ける姿を描いた大人編が3話という内訳。

少女の時代と大人の女性の時代を交互に描くことで、女子高生であるふたりの存在自体が狭間のものとなり、黄昏空を背負って歩く姿が風景と美しく一体化していく。なんとも、いい感じに“絵になる”マンガなのである。

なお、連載は「コミックNewType」で配信され、単行本が2020年3月から発売中。

電子書籍だとカラーページがモノクロ化されず色付きのまま収録しているため商品名に「電子特別版」という語がついている。そのあたりも含め、紙と電子どちらで買うかご一考されたし。

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miyamo

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