2020.06.25

お嬢様だって、格ゲーで負けた時に言う言葉は「次は殺す!」『対ありでした。~お嬢さまは格闘ゲームなんてしない~』江島絵理【おすすめ漫画】

『対ありでした。~お嬢さまは格闘ゲームなんてしない~』

お嬢様だって格ゲーで負けた時に言う言葉は「次は殺す!」

対ありでした。』に登場するのは、優雅なお嬢さまたちだ。レトロスタイルのセーラー服を着て、「ご一緒にいかが?」とささやきあう少女たち。ミッション校で全寮制、お金持ちのご息女ばかり。気品ある生徒がいっぱいの、美しい空間。

そんな中でもひときわ目立つ清楚な少女・白百合には秘密があった。外部生で庶民の娘・が深夜、誰もいない部屋で吠える白百合を見つける。

「オイオイオイどーーーした糞雑魚ッ!!!」

彼女がノートパソコンでプレイしていたのは、格闘ゲームだった。

青筋立てながら格ゲーをやるお嬢さまの姿が痛快。作中にはゴリゴリに格ゲーネタが出てきており、作者が格ゲー文化を愛しているのがひしひしと伝わってくる。全く格ゲーを知らなくても、ほぼ全てに解説が入っているので安心。

むしろ専門的な話はすっ飛ばしても、なんとなく肌で感じて飲み込める勢いと熱が絵に込められているので、まずは白百合と綾が格ゲーをプレイしている時の激しいドライブ感を味わってほしい。

綾が白百合に「大好きなもの」だった格ゲーをやめた経緯を語るシーンがある。彼女の苦悩がよく伝わってくる、共感度の高い場面だ。しかし白百合は一蹴する。

「まあ なんかよくわかんないですけど 対戦しましょう」

綾が言うのは理性としての、行動の理由付け。しかし白百合は極めてシンプルで、ざっくり言えば幼稚。なぜ対戦するかと問われたら

「対戦したいからにッ…決まってるでしょうが!!!!!!」「対戦しろ!!!」

損得とか善悪とかを全部ぶっ壊してくる白百合の感情が、この作品のキモだ。格ゲーをめぐって泣きじゃくって、へそを曲げて、勝ったら汚い言葉で挑発を浴びせる。完膚なきまでにねじ伏せるためになんでもやるし、逆にそれのせいであっさり負けることもある。お嬢様学校の宿舎でゲームをやるのは校則違反なのだが、それを破る合理的理由は何一つない。ただ「対戦がしたい」という直球な心理のみだ。

これは格ゲーマーは元より、多くのゲーマーに刺さってくるはずだ。そもそもテレビゲーム自体、役に立つ立たないとは別の次元で作られているものばかり。ゲームに使う時間を他に使えと言われたらぐうの音も出ない。しかし「なぜゲームをするのか」に対しては「ゲームをしたいから」としか言いようがない。

特に格ゲージャンルは、対人間で読み合いの個性が如実に出る。感情もあからさまに影響してくる。キャラクター同士の殴り合いなので、闘争本能むき出し、憎しみすらわいてくる。もっと言えば殺意すらわいてくる。

綾が勝ち負けではなく「ここで確実に殺すッッ」「死ね白百合!!!」と念じる様子、物騒だがこれは格ゲーならよくある光景。キャラ名ではなく相手の名前を出しているあたりに本気度がうかがえる。

ここで言う「殺す」「死ね」は、キャラを倒すとか相手の心を折るという意味だけではない。もっと曖昧な「一緒に格ゲーしよう」「真剣勝負だ」という挨拶のような感情も含まれている。

綾が笑顔で白百合に「次は殺す!!!」と言うシーンは、格ゲーマーなら是非見てほしい。普通はオンラインでもゲーセンでも「次」はそうそうない。でも綾には「次は殺す」と言える、これからも信頼して全力をぶつけあえる大切な仲間ができた、という場面だ。

対あり(対戦ありがとう)、またやろう、次は殺す。格ゲーで友達と遊んだあとに使いたくなる、素敵な言葉だ。

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たまごまご

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