2020.07.01

美しいお姉さんを飼育するのは、小学5年生『舞ちゃんのお姉さん飼育ごはん。』秋津貴央【おすすめ漫画】

『舞ちゃんのお姉さん飼育ごはん。』

美しいお姉さんを飼育するのは、小学5年生

「ごはん」系の漫画は今かなりバリエーションが多い。この作品の表紙にも「ごはん」とあるし、デザインもいいのでふと気にせず読み始めてしまいそうになるけれども、「お姉さん飼育」という字面、かなりインパクトがある。お世話じゃなく「飼育」なのだ。

五十嵐舞、小学5年生。ふと自宅の玄関に入ろうとしたところ、金髪のきれいなセーラー服のお姉さんが横たわっていた。

不審に思うも追い返すわけにもいかず、とりあえずごはんを食べさせることに。お姉さんは口元にご飯粒をつけながら大喜び。しかもその後うとうと眠ってしまう。それを見て舞の中に一つの感情がよぎる。

「いっそこのまま 飼っちゃえたらいいのに…」

極端に生活力のない謎のお姉さんの表現がかなり尖っている。自己管理がおろそかで、睡眠不足の栄養不足。絵的に小綺麗な美人なことで、浮世離れしている空気感に拍車がかかる。長い金髪が黒いセーラー服に絡むデザインは、まるで妖精かはたまた幽霊のようだ。

一方で舞の描写はリアルに子供っぽい。家事を切り盛りしているため家庭的で、田舎に住んでいる素朴さが表情や髪型や衣装からにじみ出ている。

この2人のコントラストが、「お世話」ではなく「飼育」という言葉に説得力をもたせている。リアルな子供がファンタジーなお姉さんを育てている様子は、現実的に起こるであろう問題を忘れさせる。

舞の持っている感覚は現段階では「飼い主」であり、「母性」じゃないのがキモ。

地元に知り合いが多い舞。それを見てお姉さんはすねてしまう。お姉さんは1人で引越してきたため、知り合いがいないことに舞は気づく。

「今 お姉さんには舞だけなんだ」

お姉さんはあまり表情を変えないぼーっとした人物だが、時折舞の前で顔を赤らめたり、微笑んで喜んだりする。それを見て舞はお姉さんの頭を抱きしめる。

「そんなカオになっちゃうの? かわいいなあもう」

非常に微笑ましい逆転現象。と同時に、舞があまりにもお姉さんのことを知らないのに、家にあげて甲斐甲斐しく世話をしていることに不安もよぎる。そもそも舞は、1巻のそこそこ途中までお姉さんの名前すら知らない。もしお姉さんの色々な素性が明らかになって、自分が子供だと思い知らされた時どうなってしまうんだろう。心配になる描写は、既にちらほら挟まれている。

それでも1巻は、舞がお姉さんをかわいがっている様子のほんわか感が強烈。2人がおいしいものを食べて幸せそうにしている時間は、永遠に続きそうにすら見える。もちろんそうはいかない。2人が意識し始めてからが大きな物語の山になりそうだ。

作中に出てくる料理はかなり凝ったものだ。豚の角煮丼、鮭の炊き込みご飯、チーズinハンバーグカレーなどなど。労力のかかる料理を、どうやったら小学生でも作れるか描いているのが面白い。肉の味付けにアイラップを利用したり、吹きこぼれ防止に鍋にスプーンを入れたりと、細かい生活の知恵を入れる描写が丁寧だ。

いつまでお姉さんの「飼育」が続くかはわからない。ただお姉さんが飼い猫状態から脱した時、少しでも舞に幸せが訪れてほしいと願う気持ちが止まらなくなるくらいに、舞の健気な描写が秀逸な作品だ。

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