2020.07.04
テレビアニメ化も決定!「わしかわいい」系美少女転生ファンタジーのコミカライズ!『賢者の弟子を名乗る賢者 THE COMIC』すえみつぢっか, りゅうせんひろつぐ, 藤ちょこ【おすすめ漫画】
『賢者の弟子を名乗る賢者 THE COMIC』
本日ご紹介するのはキャッチフレーズ「わしかわいい」が印象的なこちら、『賢者の弟子を名乗る賢者 THE COMIC』。
おおもとは「小説家になろう」に投稿されたWeb小説で、マイクロマガジン社から刊行されている商業小説版をコミカライズして同社のWebマガジン「コミックライド」誌上で連載中のWebマンガである。
始まりは、とある洋風ファンタジー系のVRオンラインゲーム。
超一流の実力をもつ「九賢者」の一員にして、重厚な威厳にあふれた老人・召喚士ダンブルフとしてロールプレイしていた主人公は、ある日ふいに強烈な寝落ちに見舞われる。
目覚めた時、そこはゲーム設定の延長線上にありながら五感すべてが機能し、NPCもモンスターも各種の動植物も等しく本物の生命として存在する世界……一つの現実世界になっていた。
しかも30年という歳月が経過し、ゲームだった時とはさまざまなズレが生じている。
最大のズレは、なんといってもダンブルフ自身。寝落ち直前、主人公は姿を自由に変えられるアイテムを使用していた。作成したのは、趣味全開で理想のカワイイを追求した女子型アバター。銀髪ロングに可憐なスレンダー美少女の姿で、いつもの老賢者とは対極的な見かけだった。ダンブルフはその状態で寝落ちしたのである。
ゲームが現実になった今、アイテムの再度購入ができず、姿をもとに戻すこともできない。
さて、これは困った。「老賢者は30年前に行方不明になった」と人々に語り継がれているが、自分がその賢者だけど好きこのんでこんな美少女になったあげく戻れなくなっちゃいました〜、と言うのか? それは恥ずかしい!
もともと老賢者アバターのほうは渋いカッコよさに憧れる自分が理想の男性像を演じるためのものだった。うかつに正体を明かしてイメージが崩れるのはどうしても避けたい。同時に、すぐれた召喚術を駆使して常識外れに強力な魔物を使役できる自分は何者か、うまく説明づけて身分を固める必要もあある。
そこで口をついて出た方便が、「自分は賢者の弟子だ」と名乗ることだった──というわけでタイトル回収。
かくして、賢者ダンブルフの弟子「ミラ」と名乗った主人公は30年の間におきた出来事を少しずつ探りながら、かつてNPCだったキャラクターたちとは本物の人間同士の絆を結び、また自分と同じ境遇の元ゲームプレイヤーたちとも改めて交流し、よく知っていながら新鮮でもある世界を悠々自適に冒険していく。
……というのが本作の概要となる。
ひところネットでバーチャル美少女受肉こと“バ美肉”という言葉が流行り、可愛いアバターとそのユーザーの自意識についてさまざまな言説が飛び交ったものだが、本作は文字通り受肉のファンタジーといえる。
美少女の姿を自ら造形し、美少女として周囲を魅了し、ヒラヒラの衣装を着せられ、鏡を見れば自分で自分の可愛さにまんざらでないミラ(ダンブルフ)の様子はまさにバ美肉の楽しさを抽出した眺め。ただしバーチャルが劇中では現実になっているというのが入り組んでいて、それがまた虚実のアヤをうまく突いている。
ポイントは、主人公は老人の姿から女の子に変わったが、そもそも最初の老人の時点ですでにキャラを演じている状態だったということだ。
「高齢男性のようにふるまうままで少女の姿を受け入れる」という、つまりは二重のロールプレイ。さらにプレイヤー本人の素もまじえれば三重の奥行きをもっている(しかも主人公が元の現実でどんな人間だったかは微妙にボカされている)。
そういう意味でミラ(ダンブルフ)はただ単に少女になっただけではなく、年齢も心身の性別もあいまいな境をまたぐ絶妙なバランスを備えている。だから読者が感じる趣もそれに応じたふくらみがあるのだ。「わしかわいい」のシンプルな一語のなかには、そのボーダレスな存在の情報がみっちりと詰まっている。
いわゆる“のじゃロリ”ヒロインを成立させるにあたって、こういうアプローチがあるかぁ、と感心させられる作品だ。
なお、5月にマイクロマガジン社が出したプレスリリースによると、本タイトルはテレビアニメ化が決定済みとのこと。
今からであれば本作や原作をチェックして万全の状態でアニメを待つことができる、ちょうどいいタイミングだろう。
©すえみつぢっか, りゅうせんひろつぐ, 藤ちょこ/マイクロマガジン社