2020.07.11

柔らかいタッチで宇宙人との交流が描かれる、滋味あふれるSF漫画!『果ての星通信』メノタ【おすすめ漫画】

『果ての星通信』

本日は『Comic PASH!』で配信中の滋味あふれるSFマンガ、『果ての星通信』という作品を紹介しよう。

はじまりはロシア連邦サンクトペテルブルクのとある街

主人公マルコは、少年時代に雷に打たれた過去をもつ青年である。大学を卒業したばかりの彼は恋人と世界旅行に出かける予定を立て、心弾ませながら準備を進めていた。

ところがその矢先、激しい頭痛と古傷からの出血、さらにボロボロと肉体が崩れだす異変に見舞われ、意識が暗転。目覚めると見知らぬ場所に放り出されていた。しんしんと降り積もる雪空のもと、不思議な構造物がひしめく得体の知れない土地……。

混乱するマルコは灯りのついた家を見つけ、救いを求めて駆け寄る。ところが、そこにいた者を見てさらなるパニックに陥ってしまう。フォルムは人に近いが2〜3mは伸びる長い腕をもち、一枚の舌では発音できない名前をもつ異形

「会うのは二度目だね 元気そうで何よりだよ これから10年間仲良くやろう」

そう、ここは地球から遠く離れた星で、そいつは宇宙人。しかもマルコのことを知っている。かつてマルコがくらった雷は、宇宙人がいずれ彼を転送させる時のためのマーキングだったのだ。

宇宙人に誘拐された!? 一体どんな目に遭わされるのか……と思ったら、他にも別種の宇宙人たちが出てきて穏当に迎えられるマルコ。

聞けば、地球から転送されたそこは惑星モスリといい、「果ての管理者支部局」と呼ばれる一種の職場らしい。

ある時、宇宙の創造と破壊をつかさどる上位存在が自分の役目をめんどくさがり、代行機関を作って仕事を丸投げにした。その組織はあらゆる星からランダムに選ばれた若者を局員として徴用しているのだという。マルコもまた、選ばれたのである。

任期は出身星の暦で10年間。地球人の青年は星を卵のように孵化させて宇宙に放流するという不思議な仕事に関わりつつ、支部局の同僚をはじめ多種多様な宇宙人たちと交流を重ねていく……。

いわゆるエイリアンアブダクションをとっかかりにしているが剣呑なムードではない。創世神話・天国説話のSF互換、悲喜こもごものお仕事人情話、異文化コミュニケーション、異郷の生活雑感などなど、幅広い方向とスケールの切り口がすべてうまく溶け合った懐深い情景を見せてくれる作品だ。

本来の意味の「世界観」(単なる設定ではなく世界の見方)がしっかりしている、という言い方もできようか。

ふわっと柔らかい雰囲気ながら同時にどこかやるせない陰りの感触は、やはり10年という時を奪われることになった主人公の複雑な心境が生む読み味なのだろう。

はじめは脱走を企てるもじょじょに仕事に慣れていき、宇宙を管理する組織の一員として宇宙人たちと渡り合っていくマルコだが、放りっぱなしになった地球の恋人や、やるはずだったのに取り返しがつかない事はどうしても無念の滓(おり)として心に溜まっている。

「いやおうなく新しい環境に移る(移らされる)時に抱えこむ心残り」というのは、現実にもあるものだ。それに折り合いをどうつけるか、または折り合いをつけようがない場合どう向き合うか。宇宙人や天地創造とは違う形でも、内面的な状況としては誰でも経験しうる境遇である。

まったりしている……みたいな形容一つだけではくくれない深い趣は、そういう作りからきているのだろう。

任期が終わったとき、マルコの胸に去来するものはいったいどんな心持ちなのか。行きつく先が気になるマンガである。

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miyamo

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