2020.07.29

男女のスキンシップの感覚のズレを、亜人種との交流に置き換えて描いたラブコメディ!『鬼塚ちゃんと触田くん』中原開平【おすすめ漫画】

『鬼塚ちゃんと触田くん』

彼女のツノに触りたいけど触らないのは、大事にしているから

スキンシップは好意を示す重要な手段。とはいえ触っていいか悪いかは時と場所で変わり、しかも人によって感覚が違う。特に男性が女性に触れる場合はセクハラになりかねない。逆に距離を置きすぎても、好意が欠如しているかのように感じられてしまう。

「スキンシップの距離感問題」は多分永遠に答えの出ない、当事者にしかわからない問いだと思う。

鬼塚ちゃんと触田くん』は、男女のスキンシップの感覚のズレを、亜人種との交流に置き換えて描いたラブコメディ

舞台は異種族が平和に共存している世界。触田緑郎(さわりだ・ろくろう)は触感フェチの男子学生。異種族を見るたび、自分にないパーツを触りたくていつもうずうずしている。

彼の幼馴染の鬼塚よもぎ(おにづか・よもぎ)は、鬼の女子学生。頭に小さなツノが生えている。鬼塚は触田が他の異種族の子の身体を触りたがっているのを見ると、嫉妬してしまう。かと言って彼にツノを触られるのは恥ずかしいらしい。

いつも一緒にいる二人は、はたからみると付き合っているようにしか見えない。でも実はどちらも告白していない。触田が鬼塚の角を触らないまま、進展しない関係でお互い悩む日々が続く。

背中に鳥の羽が生えた羽被(はぴ)は、自分の羽が触られることになんの抵抗感も持っていない。触田が許可を取ったら、握手のような感覚で触らせてくれる。

猫田(ねこた)は猫のようなパーツをもった女の子。しっぽを触らせること自体は別に嫌ではないらしいが、本能が拒否するようで反射的に攻撃してしまう。

牛の角が生えた牛山(うしやま)は、恥ずかしいから触られるのはNG。

この差が、スキンシップと個性をうまく反映している。同じ「触る」という行為でも、理性が拒否する場合、感覚的にダメな場合、全然気にしない場合と異なる。

では鬼塚はというと、拒絶ではないしウェルカムでもないが、触田に触れられるのは照れるからいや、という対個人の問題になっている。おそらく猫田などと違って、友人に触られる分には気にならないのだろう。幼馴染の触田が触ってくることに対して、特別な意味を感じているようだ。

恋愛とスキンシップは非常に関係性が密接だ。鬼塚がツノを意識すればするほど、それは触田に対する恋愛が強まっていることを意味する。それに対して彼女のツノの興味津々なのに触れないでもない触田は「…触らないのは…大事にしてるからだよ…」とこぼす。

性的なコミュニケーションが、恋人との信頼関係の上になりたっているスキンシップであるのと非常に似ている。二人にとってツノを触るかどうかは、お互いの信頼関係の段階を踏んでいく、キスやセックスと同じ意味合いを持つのだろう。

セクシャルになりかねないデリケートな問題を、見事に健全に描ききっている。今後ツノに触れる瞬間が描かれるとしたら、エロティックなシーンよりも遥かに艶めかしい、心の通い合いの場面になりそうだ。

スキンシップ問題を亜人種で描くことで隠喩しているこの作品。同時に異種族間問題にも丁寧に触れている。子供の頃鬼塚が人間の子どもたちにいじめられるシーンが入っている。

とはいえこれは差別ではなく、背が高いとか身体が大きいとかのような「個性」へのいじりに近い表現だ。学校では異種族間交流は当たり前で、誰も違和感を持っていない。同時に触田は形状の違う異種族を触りたくて仕方ない。

別け隔てはしないけど、異なる個性には触れたいという考え方を隠さず堂々と、礼儀は守って出しているのは好感が持てる。

大人から子供まで楽しめる作品。できれば彼らと同じ世代の中高生に、ツノを触ることの意味に触れながら読んでほしい。

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たまごまご

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