2020.08.11
恋敵は、“自分と同じ顔をした女”!?「東洋の魔窟」で紡がれる、一筋縄ではいかないラブロマンス『九龍ジェネリックロマンス』眉月じゅん【おすすめ漫画】
『九龍ジェネリックロマンス』
『恋は雨上がりのように』の眉月じゅん先生による新作『九龍ジェネリックロマンス』の第2巻が、先日発売となりました。
前作に引き続き、「こんな男に恋してるの!?」とちょっぴり戸惑うような男性に惹かれていく女性が主人公の恋物語なのですが、今回はそれだけでは無いようで……?
物語の舞台は謎多き「九龍城砦」
『九龍ジェネリックロマンス』の舞台は、“東洋の魔窟”と呼ばれた、いまは亡きスラム街・九龍城砦(くーろんじょうさい)。けれど、僕たちが知る現実のそれとはちょっぴり趣が異なる様子。
90年代初期に取り壊された現実の九龍城砦ですが、本作の世界ではどうやら科学技術がかなり発展している模様。スラムの空には人類の新天地として建造中の正八面体“ジェネリック地球(テラ)”が浮かんでいます。そもそもここはあの香港にある九龍城砦なのか? 時代設定はいつなのか? といったことも現時点では明かされていません。
疑問は尽きませんが、細部まで描き込まれた九龍城砦の猥雑で活気に満ちた雰囲気には、それだけで強く心を惹きつけるものがあります。
最高にかわいい新ヒロイン・鯨井令子(32)
主人公は、九龍城砦にある不動産屋で働く32歳の女性・鯨井令子(くじらいれいこ)。そして彼女の悩みの種になっているのが、同じ職場で働く工藤発(くどうはじめ)。34歳の男性です。
出退勤のカードを切るときの横入りをはじめ、ガサツで身勝手な行動の目立つ工藤。鯨井が目元の皺を気にしている様子をからかうなど、デリカシーもありません。
なのに何故か一緒にいて悪い気はしないし、気づくと彼の一挙手一投足を目で追ってしまう鯨井。やがて彼女は工藤への恋心を自覚します。
余談ですが、僕は眉月先生が描く女性がほんとうに大好きで、『恋は雨上がりのように』のヒロイン・橘あきらちゃんにもひとめ惚れだったのですが、鯨井さんの年齢相応に擦れてるのかな? と思いきやたまに子どもみたいに無邪気なところとか、時折とんでもなく無防備なところとか……最高にキュートで色っぽくてヤバい。
仕事中の制服姿といい、私服の中華風ファッションといい、抜群のプロポーションも相まって見惚れてしまいます。さっぱりしたショートヘアに眼鏡も似合っていて、あきらちゃんとはまた違った魅力満載です。
九龍城砦という舞台設定に、オトナな女性の恋物語。この組み合わせだけでご飯3杯はイケる魅力を放っている本作ですが、物語は予想外の方向へと転がっていくことに。
どうやら工藤のほうも、鯨井を憎からず想っているようなのですが、その視線は鯨井を見ているようでいて、別の誰かに向いているようにも思えて……?
「身に覚えのない写真」からはじまるミステリー
ある日、散らかった工藤の机を見かねて片付けようとした鯨井は、開きっぱなしの引き出しから、あるものを見つけます。それは、撮った覚えのない自分と工藤とのツーショット写真。これをきっかけに、鯨井は自分には過去の記憶がまったく無いことに気づくのです。
写真に写っている「自分と同じ顔をした誰か」を“鯨井B”と仮定し、彼女の正体を突き止めようとする鯨井(A)。僕たち読者も、彼女と一緒に様々な可能性に思いを巡らすことになります。
まず最初に思いつくのは、なんらかの理由で鯨井が記憶を失っているというパターン。しかし、「鯨井Aは工藤のふたつ歳下だが、鯨井Bは工藤よりふたつ歳上」、「鯨井Bの耳にはあったピアスホールが、鯨井Aには無い」など、それだけでは説明がつかない描写がちらほら見えてきます。
いったい、鯨井Bは何者なのか? 第2巻の終盤では、作中のTVCMや、巨大看板などで幾度となく登場して印象に残る“蛇沼製薬”のトップが鯨井に接近。高度に発展した科学やタイトルにもある“ジェネリック”と相まって、様々な想像を掻き立てられます。
分が悪い片想いは実を結ぶのか?
「なつかしいって感情は、恋と同じだと思ってる」
これは第1話での工藤と、工藤の回想に登場する鯨井Bの言葉です。「なつかしいって感情」を大事にしている工藤の気持ちの向かう先は、想い出の中にだけ存在する鯨井B。鯨井Aにとっては分が悪い片想いと言えるでしょう。
僕たちにとってもなつかしさを伴った場所である九龍城砦という舞台は、過去を持たない鯨井Aに微笑むのでしょうか? 今後の展開が楽しみです。
©眉月じゅん/集英社