2020.08.18
狭い島が舞台、ままならない現実を前にした受攻双方の心の救済を描く、オメガバースBL!『晴るかす青』環山わた【おすすめ漫画】
『晴るかす青』
オメガバースものBLです。とにかく表紙が雰囲気満点で美しい。
タイトル文字を意図的に隠しているの? と言わんばかりの描きこみと、色数を絞ったブルー中心の配色で、おとなしい色彩の表紙だというのに本屋さんで他の本と並んでいると、この作品だけ浮き上がったように目を引きます。
「オメガバース」というのは欧米発祥のBLの特殊設定で、人類がα・β・Ωの3種類に分かれていて男女問わず全員が妊娠できるという世界観です。αを頂点に、β、Ωと続きますが、Ωの身分は残りの2つより一段下がる感じです。……このオメガバースの設定説明だけでコミックスの最初の4ページが割かれているので、気になる方はぜひ、熟読してみてくださいね。
島全体でΩが身体を商売道具にしている場所が舞台のこのお話のカップリングは、母親の足跡を辿るα×身体を売るのを拒否し続けているΩというものでした。
この島は、Ωの身体を商売道具にし、Ωと客との間にできた赤子を有料で養子に出すことでキャッシュを手に入れているのです。
攻の母はこの島の出身者でした。亡くなった母の面影を追って島まで来た攻は、島でΩの少年を買うのですが、最初のうちは夜のメインイベントはスルーさせられます。母が写っている写真を見ながら、観光と称してそれが撮影された場所をΩの少年と共に巡っていきます。探している場所に案内してもらい、母を知っているという人の話を聞き、海では釣りをして、母の実家を訪ね……。
毎日を共に過ごすうちに、お互いが「好き」を意識する前に相手を好きになっています。まさに人の気持ちのグラデーションを、島の日常に溶け込ませたようなイメージとでもいうのでしょうか。決定的な何かが起こるわけではないのですが、いつの間にか距離が縮まっている感じです。
母を亡くし、身勝手な父の要望を蹴ってしまえば本当に独りになってしまう攻と、生き方を自分で選びたいと切望する受。ままならない現実を前にした双方の心の救済を描いた、静かに迫るものがある作品でした。大きな事件が起こるわけでもなく淡々と1冊分の分量をしっかりと読ませてくれる良作です。
@環山わた/ふゅーじょんぷろだくと